TUP BULLETIN

速報842号 ドナより ガザでのラビたちと、心から離れない一家の写真

投稿日 2010年1月25日

どうして私たちが標的にされたのですか。いまだに答えを探しています。


 オーストラリア人女性ドナ・マルハーンは、2003年の春にはイラクで「人間の盾」に参加した。04年春にはイラクで米軍包囲下のファッルージャに入り、その帰路地元レジスタンスによる拘束を経験し、つぶさにその報告をしてくれた。04年冬から05年春にかけてはイラク・パレスチナ「巡礼の旅」を伝えてきた。05年8月には、シンディ・シーハンのキャンプ・ケーシーに駆けつけ、アメリカからの報告は、ほとんど実況中継だった。05年12月にはオーストラリアがイラク戦争に最も貢献してきたパイン・ギャップ秘密基地に侵入し、3人の仲間とともに「市民査察」を強行した。冷戦の遺物である「防衛(特別事業)法1952年」に基づき裁判にかけられたが、08年2月に第2審で無罪判決を勝ち取った。
 今回ドナは、違法なガザ封鎖を打ち破り、人道援助を届けようとする「ガザ自由行進(Gaza Freedom March)」に参加するためにエジプトに入国しました。世界中からカイロに集まったおよそ1400人の参加者がガザ入りすることをエジプト当局が拒否して多くがカイロに足止めされているなか、ドナたちは別動隊としてガザ入りを果たした後にエジプトに戻りました。その後、参加者たちの多くも帰国の途につき、ドナも1月14日無事に帰国しました。本稿は、帰国前にドナがエジプトから送ったガザの報告です。
        (前書・翻訳・訳者注:福永克紀/TUP、訳注:岡真理/TUP)


ガザでのラビたちと、心から離れない一家の写真
ドナ・マルハーン
2010年1月12日

お友達の皆さんへ

黒くて長いコートに、つばの広い黒色フェルト生地の帽子をかぶった正統派ユダヤ教のラビが、ガザの爆撃されたマフムードの自宅の居間で、両腕を伸ばしてマフムードを抱きしめたとき、私は体の向きを変えました。彼らのプライバシーを尊重するため、そして自分の涙を隠すために。

ラビとパレスチナ人の二人の男性は、ザムーニー家の質素な居間の一角に高く貼られた一家の写真の下で抱き合いました。普通の家族写真ではありません。男たちの顔が、女たちの顔が、子供たちの顔が、全部で28人の顔が写っています。でも、それはイスラエル国防軍による昨年のガザ攻撃で殺害された家族の顔でした。そうです、28人。ええ、全員がひとつの家族の一員です。赤ん坊たち、子供たち、おじいさんたち、お母さんたち。

ラビのワイズ師は、ガザの人々に、ユダヤ教徒の愛と連帯と関心を伝えるために米国からやってきました。告白しますが、ガザに向かうバスにラビたちが、4人のラビが乗っているのを最初に見たとき、私は心配になりました。伝統的な白と黒の衣装で、長い髭をたくわえ、顔の両側に髪を編んで垂らし、何もかも一式総ぞろえです。彼らの姿を見て私は不安になり、そのような光景から連想されるかもしれない恐怖を考えると、ガザの幼い女の子ならどう受け止めるだろうかと思いめぐらすばかりでした。しかし、ガザに到着するやいなや、派遣団のメンバーのうちで特別ゲストはだれなのか、一目瞭然でした。私たち全員が温かく歓迎されましたが、4人のラビはまるでロックスターのような扱いで、主賓として、深い敬意を払うパレスチナ人招待者たちから篤く歓迎され、丁寧なもてなしを受けました。

最初の日に、国境のエレズ検問所に抗議行進をしているあいだ、メディアの注目を集めたのは私たち行進者のみならず、その中心はラビたちでした。彼らの衝撃的な出現のためばかりでなく、彼らの過激なメッセージのためでもありました。このグループは、一種のナショナリズムであるシオニズムとしてではなく、なによりもまず宗教としての、そして霊性としてのユダヤ教に焦点を当てているナトーレイ・カルター・インターナショナル[訳注1]からやってきた人たちです。彼らはイスラエル国家の存在に反対し、シオニズム信条に異議を唱え、ユダヤ人であるための「離散」[訳注2]状態が今もなお求められていると信じ、パレスチナにおいてパレスチナ人との平和的共存に戻ることを提唱しています。彼らはまた、パレスチナ人に対する攻撃や残忍な扱いはトーラー[訳注3]の教えにそむくと考えています。ワイズ師の演説は、行進の発言者が行なったイスラエル政府に対する糾弾の中で最も強烈であり、聴衆を、私自身をも、仰天させました。正統派ユダヤ教徒といえば、パレスチナ人は実は残忍な占領下にあるにも関わらずパレスチナ人に対する無関心しか思い浮かべなかった多くの人たちが、今やもうひとつ別のイメージを持つようになりました。固定観念が問い質されました。違った物語が、平和的な、思いやりのある存在があったのです。
[訳注1:ナトーレイ・カルター ・インターナショナル Neturei Karta International。アラム語で Neturei Karta は「都市の守護者たち」を意味し、トーレイ・カルターはヘブライ語表記に最も近そうな日本語表記。ネトレイ・カルタ、ネトゥレイ・カルタ、ナートーレー・カルターなどの表記も見受けられる]
[訳注2:離散 exile。「離散」 はヘブライ語で galut (ガルット)、「ディアスポラ」と同義。歴史的にユダヤ人は幾度も離散を体験し、その離散の経験を通じて、ユダヤ教の教義やユダヤ人のアイデンティティが構築されてきた。ガルットを否定するシオニズムが敬虔なユダヤ教徒によって否定されるのもそのためである]
[訳注3:トーラー Torah。 ヘブライ語で「トーラー」は「教え(teaching, instruction)」を意味する。最も狭義にはいわゆるモーゼ五書を指す。しかし「書かれたトーラー」はいわゆる旧約聖書に収められたものすべてを指す。また「口伝のトーラー」もある。さらに、もっとも広義の「トーラー」はユダヤ教の教えの総体を意味する]

主流ユダヤ教徒の間では、ナトーレイ・カルターのグループはユダヤ教の「非主流派」で、その教えは世界的なユダヤ教徒の社会で物議を呼んでいると見做されているかもしれません。それにもかかわらず、ザムーニー一家の家におけるラビたちの存在は大きな力でした。私たち皆はいくつもの大破された家の中を見せてもらっていました。攻撃の日々の痛ましい話を聞きながら。直接の銃撃で、アパッチ・ヘリコプターの攻撃で、ミサイルで、爆弾で、2週間にわたりさまざまな形で家族がひとりまたひとりと殺された話を。私がイスラエル兵に占拠されていた家の中を見せてもらっていると、イスラエル兵が英語とヘブライ語で壁に書いた落書きが見えました。もしこの落書きにラビたちが何らかの反応を示せば、もっと何か意味が生まれるのではないかと思い、私はラビたちを家の中に呼び入れました。

落書きを見たラビたちは、恥じ入る様子で首を振りました。いくつか描かれたイスラエル国旗と一緒に書かれていた語句には、「逃げても隠れはできんぞ」や「お前ら皆殺しにしてやる」とか、またダビデの星のそばには「一人かたづけた、残りは999,999人」とかがあり、私には読めないヘブライ語で書かれたものももっとありました。ラビたちはその家の家族たちと会い、攻撃の話を聞き、写真を見ました。瓦礫の中から引きずり出された数々の遺体の写真を。幼い少年たちや少女たちの、赤ちゃんたちの、女性たちの写真を。そして、28人の殺された家族の顔が写ったあの写真を。

その顔写真が見下ろすマフムードの自宅居間で、マフムードを抱擁するとき、ワイズ師は「すみません」と言いました。

それで亡くなったザムーニーの家族がよみがえるわけでもなく、1年後の現在も瓦礫の中にある家が再建されるわけでもないでしょうが、ラビたちの真摯な共感が、いくつかの固定観念をわずかでも変え、小さな希望をもたらし、痛みのいくらかでも癒すかもしれません。

ガザのコミュニティの生活を窒息させる封鎖包囲が続くなか、多くの政府が(オーストラリアもその一部)ザムーニー一家のような家族に正義を求めるゴールドストーンの報告を拒絶して国際社会が沈黙しているとき、おそらく私たちすべてが謝罪すべきなのでしょう。そして、おそらくほかにも求められているものがあります――ガザでのラビたちの行為のように、ガザの人々に連帯を示す愛ある行動が、小さな希望をもたらし、痛みのいくばくかを癒すのでしょう。

皆さんの巡礼者
ドナより

追伸:このラビたちに興味を抱かれるかた、www.nkusa.org が彼らのウェブサイトです。

追追伸:二人のラビとザムーニー家の子供たちの写真を添付しています。
[訳者注:TUPでは、ファイル添付はできません。写真は以下のサイトにあります。
http://groups.yahoo.com/group/ThePilgrim/attachments/folder/1776564136/item/1867192091/view

追追追伸:ゴールドストーン判事はザムーニー一家を訪問しており、家族はゴールドストーン報告が何らかの正義をもたらすか、少なくともガザで犯された犯罪が確認されるのではないかと多大な希望を抱いています。この報告の知見を調査する国連議決がオーストラリアにどうして支持されないのか尋ねて、皆さんの地区の議員に書き送ることが、連帯行動の一つとなるでしょう。以下を参照。
www.goldstone-report.org

追追追追伸:「どうして私たちが標的にされたのですか。まだ私たちは知りません。私たちは民間人だとはっきりさせてきました。いまだに答えを探しています」――マフムード

原文:The Rabbi’s of Gaza and the haunting family photo
URL: http://groups.yahoo.com/group/ThePilgrim/message/243