TUP BULLETIN

速報868号 使者を撃つな

投稿日 2010年12月21日

速報868号 

<ジュリアン・アサンジが語るウィキリークスの意義>

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ウィキリークスが公開し続ける膨大な内部告発文書により世界各国の国家権力の欺瞞があきらかになっている。同時にウィキリークスの報道活動を弾圧しようと、編集長ジュリアン・アサンジに対する攻撃も苛烈だ。12月8日、アサンジはロンドンの警察署に任意出頭したまま拘禁され十日間の監禁後に保釈された。しかし今後も米国送還を狙うオバマ政権およびペンタゴンとの葛藤は今後ますます苛烈になるものと予想される。主流メディアでの報道は派手に展開されているが、実際にどれほどの人たちがアサンジの動機や意図を理解しているだろうか。ジュリアン・アサンジ本人の声に耳を傾けてみよう。

出頭の朝、故郷の新聞『オーストラリアン』紙にアサンジが寄稿した記事を素早く日本語に翻訳してブログに掲載したイチムラ・サトミさんをゲストにお迎えした。イチムラさんのブログもぜひご覧いただきたい。



前書き:宮前ゆかり・TUP、ゲスト翻訳:イチムラ・サトミ

使者を撃つな
著者:ジュリアン・アサンジ
二〇一〇年一二月八日、『オーストラリアン』紙掲載

1958年、アデレードの『TheNews』編集長兼オーナーだった若き日のルパード・マードックは、こう書いた。「秘密と真実を競わせたら真実が常に勝つ。それは避けようがない」

彼の論考はおそらく、父キース・マードックの暴露報道を受けてのものだったろう。氏はガリポリの海岸で無能な英国司令官らのせいで豪州志願兵の命が無為に犠牲になった事実を報じた。英国は彼の口を封じようとしたが、それで黙るキース・マードックではなかった。彼の努力はやがて功を奏し、壊滅的被害を出したガリポリの戦いは終わった。

あれから1世紀近く経った今、WikiLeaksも恐怖にもめげず果敢に、公表すべき事実を公開している。

僕はクイーンズランドの田舎町に育った。そこではみんな自分の思うことを明け透けに喋っていた。大きな政府は信用しない、用心して見張らないと腐敗するかもしれないから―そんな土地柄だった。実際、フィッツジェラルド審問(注1)前のクイーンズランドは、政府が腐敗まみれの暗黒の時代だった。真実を伝えるべきメディアに政治家が報道規制をかけるとどうなるか。それを示す何よりの証拠だ。

こうしたことは僕の体の中にずっと残っている。WikiLeaksはこうした価値を軸に据え、その周辺に創成された。インターネット技術を全く新しいやり方で活用しながら真実を報じる――この発想は僕がオーストラリアで授かったものだ。

WikiLeaksがあみ出したのは、「科学的ジャーナリズム」という新しいタイプのジャーナリズムである。我々が他の報道機関と一緒に連携して働くのは、人々にニュースを伝えるためもあるけど、報じる内容が事実に間違いないんだよ、と証明するためでもある。科学的ジャーナリズムにおいては、ニュース記事を読んだその人が、記事のベースとなる元の文書までクリックして見ることができる。こうすれば読み手は自分の目でニュース判断ができる。この記事は本当だろうか?記者は正確に伝えたのか?と。

民主主義社会には強いメディアが不可欠だ。WikiLeaksはその一翼を担う。メディアは政府の欺瞞を監視するためにある。WikiLeaksはこれまでにもイラク、アフガン戦争に関する厳然たる真実を白日の元に晒し、企業の不正をスクープしてきた。

僕を反戦主義者と呼ぶ人もいる。念のため断っておくが、それは違う。国には戦争にいかなければならない時もある。正義のための戦争もある。だが、こうした戦争について政府が国民に嘘をつき、戦線に国民の命と税を出すよう嘘の上塗りを迫るほど間違ったことはない。戦争が正当化できるものなら、そのまま真実を述べればいい。支持するかどうかは国民が決めることだ。

アフガン、イラク戦争のログ、米国大使館の公電など、これまでWikiLeaksが報じたものを記事で読んだみなさんは、よく考えてみて欲しい。こうした事柄を全マスコミが自由に報じることができる、これがどんなに重要なことか。

アメリカ大使館の公電を報じたのはWikiLeaksだけではない。英ガーディアン、米ニューヨーク・タイムズ、西エル・パイス、独シュピーゲルも問題箇所を削除した同じ公電を流している。

なのに米国政府とその信奉者から最も凶悪な糾弾に晒されているのは、こうしたグループを総括したWikiLeaksだけだ。僕は国家への反逆者と非難された。米国民ではなく、オーストラリア人であるにも関わらず。僕を米特殊部隊に「殺(や)らせろ」と本気で訴える人もアメリカ国内には大勢いる。サラ・ペイリンは僕を「オサマ・ビン・ラディンみたいに追い詰めて逮捕すべきだ」と言っているし、米上院には共和党から「国境を超えた脅威」と宣言して僕にしかるべき処分を行う法案が出ている。カナダ首相官邸の顧問はTVの全国放送で僕を暗殺すべきだ、と訴えた。あるアメリカ人ブロガーは、ここオーストラリアにいる僕の20歳になる息子を、誘拐して傷めつけてやれ、と言う始末だ。それも僕をおびき寄せるという、たったそれだけの目的で。

オーストラリア国民にとって不名誉なことに、ジュリア・ギラード首相と政府はこういう感情に臆面もなく迎合している。僕のオーストラリア国籍のパスポートを使用停止にし、WikiLeaksの支援者をスパイしたり嫌がらせしたり、オーストラリア政府の権力がアメリカ政府に全くいいように使われている。オーストラリアの検事総長も米国の捜査に全面協力しており、国民を陥れ、その身柄を米国に送るよう指示を下しているようだ。

豪ギラード首相も米ヒラリー・クリントン国務長官も、他の報道機関のことは一言も非難していない。何故ならガーディアン、ニューヨーク・タイムズ、シュピーゲルは古くからある大手で、WikiLeaksはまだ若く、小さいからだ。

僕らはアンダードッグ(勝ち目のない犬)なのだ。ギラード政権はこのメッセンジャーを撃ち落とそう(注2)と躍起だ。何故なら真実が暴かれると困るから。同政権自身の外交・政治取引きを含めて。

僕とWikiLeaksスタッフに対する暴力の脅迫は公然と何度もなされてきた。が、オーストラリア政府はただの一度でも対策らしきこと、やってくれただろうか?あのオーストラリア首相なら国民をちゃんと守ってくれると思ってる人もいるかもしれない。が、彼らは全く法的裏付けもないまま、僕らの活動を違法行為と糾弾するばかりだ。首相、検事総長たるもの、超然と尊厳をもって自らの任務を遂行するのが仕事ではないか。それがこのふたりは保身だけである。言っておくが、これで保身になると思ったら大間違いだ。

WikiLeaksが米国政府機関の不正事実を公開するたびに、オーストラリアの政治家は国防省の音頭に合わせて「おまえは人命を危険に晒している!国の安全を!兵士を危険に晒すのか!」(これもおそらく間違い)の大合唱。そう言う端から、WikiLeaksが公開することなんて重要でもなんでもない、と言う。どっちも正しいなんてことあり得ないだろ。どっちなのだ?

実はどっちでもない。WikiLeaksは出版歴4年。この間、政府のことは抜本から変えてきたが、人の目が届く範囲で、危害を受けた個人はひとりも出していない。ところが米国は(オーストラリア政府も共謀だ)、この数ヶ月だけでも何千人という人々に危害を加えている。

米議会に提出した書簡の中でロバート・ゲーツ米国防長官は、アフガン戦争の記録公開でも機密に関わる諜報ソースやメソッドはひとつも表に出なかったと認めている。国防省は、WikiLeaksの報道が元でアフガニスタンで誰かに危害が加わったことを示す証拠はないと述べた。在カブールのNATOも、護衛が要る人はひとりも見つからなかったとCNNに話している。オーストラリア防衛庁も同じことを話している。我々がこれまで公開した何かが元でオーストラリアの兵士やソースに危害が加わった事例は、ひとつもないのだ。

でも、かといって我々の公開する内容が重要でもなんでもない、というのは当たらない。米外交の公電でも驚くべき事実がいくつか明らかになった。

►米国は国連職員および人権保護団体職員の生体素材と個人情報(DNA、指紋、虹彩スキャン、クレジットカード情報、ネットのパスワード、ID写真まで含む)を盗むよう自国の外交官に指示していた。これは国際法違反に当たる。オーストラリアの国連外交官も狙われていた可能性がある。

►サウジアラビアのアブダラー王は、米国にイランを攻撃するよう求めていた。

►ヨルダンとバーレーンの政府高官は手段を厭わず、イラン核開発プログラムを阻止したいと考えている。

►英国のイラク戦争に関する審問は「米国の国益」を守るため修正された。

►スウェーデンはNATOの極秘加盟国である。米国との諜報活動共有については国会も知らされていない。

►米国はグアンタナモ収容所の人々を受け入れてもらうため強硬手段をとっている。バラク・オバマはスロベニアが収監者を受け入れる場合のみスロベニア大統領との首脳会談に応じてもいいと条件を出した。豪州近隣のキリバス共和国には抑留者受け入れと引換えに何百万ドルという金額を提示した。

ペンタゴン文書裁判で米最高裁は「政府の欺瞞を効率良く暴露できるのは自由かつ規制のない報道機関のみである」という歴史的判決を下した。現在WikiLeaksを取り巻く嵐を見るにつけ、真実を暴く全報道機関の権利を保護する必要性を改めて強く感じる。

本稿寄稿者ジュリアン・アサンジ氏はWikiLeaks編集長

編注1:1987年にクイーンズランド警察幹部の組織的汚職を解明したフィッツジェラルド審問は、地元の勇敢な新聞記者たちの忍耐深い調査報道活動によって実現した。

編注2:【Don’tshootthemessenger】
メッセンジャーを撃つな──悪い知らせを持ってきた使者に怒りをぶつけても、問題の解決にはつながらないという意味の決まり文句。

原文:
Published on The Australian on December 8, 2010
Don’t Shoot Messenger For Revealing Uncomfortable Truths
By Julian Assange
http://www.theaustralian.com.au/in-depth/wikileaks/dont-shoot-messenger-for-revealing-uncomfortable-truths/story-fn775xjq-1225967241332

イチムラ・サトミさんのブログ記事リンク:
使者を撃つな
http://longtailworld.blogspot.com/2010/12/dont-shoot-messenger-for-revealing.html