TUP BULLETIN

速報892号 TUP論説:ニュージーランドの地震から教訓を読み解く

投稿日 2011年2月24日

 地震国さえ「不意を突かれる」大規模地震から学ぶこと




ニュージーランドは紛れもない「地震国」だが「備えのある」地震国であったはずだ。プレート境界上に位置する列島ということでは、日本と全く同じ。しかし現実には「わずか」マグニチュード6.3の地震で、三桁の死者・行方不明者(2月24日現在)を出す大惨事になった。「備え」のどこかにほころびがあったことは間違いない。


 人間は現在も地震を「知って」などいない。中規模以上の地震が起こるたびに「意外な」「予想もしない」「不意を突かれた」災害に見舞われる。それが「資金もなく、知識もない」国だけではなく、十分な知見も資金もある国でも、同じだ。


 ニュージーランド第二の都市を襲った今回の「2011カンタベリー地震」は、私たちに何を教えているのだろう。一人でも多くの人が出来るだけ早く救出されるよう祈りながら、考えてみた。


前書き/本文:山崎久隆(TUP) 


[TUP論説]:ニュージーランドの地震から教訓を読み解く

 ニュージーランドの地震のニュースが多く流れています。震源が5キロ程度と浅く、大きな被害が出ています。

 最大の被害が出ているクライストチャーチはガーデンシティと呼ばれるニュージーランドの第二の都市で人口約37万6千人、南島では最大の都市。2月22日午後12時50分にマグニチュード6.3(リヒタースケール)の地震がクライストチャーチの南東10キロ付近を震源として発生しました。

 米地質調査所のデータです。

USGS

M 6.3, South Island of New Zealand
Date:   Monday, February 21, 2011 23:51:43 UTC
Tuesday, February 22, 2011 12:51:43 PM at epicenter
Depth:  5.00 km (3.11 mi)

ニュージーランドでの過去最大の被害のあった地震は256人が死亡した1931年のホーク湾地震です。68年には7.1の地震が起きていて、このときは3人が死亡しました。

昨年9月にはマグニチュード7(モーメントマグニチュード)の2010カンタベリー地震(2010年9月4日午前4時35分・震源深さ11キロ、クライストチャーチの西40キロ)が今回の震源から100キロほど東で起きています(ジオネットより)。この地震では死者はありません。従って、今回の地震はNZにとって68年以来の死者を伴う地震災害です。

今回は大都市の直下で起きたという意味では、阪神淡路大震災と同様の震災をもたらしたと思われます。ニュージーランド史上最悪の地震災害になる可能性もあります。

ジオネットのデータには各地の観測値を表す情報がありました。

http://www.geonet.org.nz/var/storage/images/media/images/news/2011/lyttelton_pga/57159-2-eng-GB/lyttelton_pga.png

 地震加速度についてジオネットのデータを見ると、2200ガルというのが最も大きな数値です。

 なお、このページのデータは「220.3%g」つまり重力加速度gの何パーセントという表記なので換算しています(2月21日23時51分現在のデータです。今後も更新される可能性があります)。

 震央から5キロ程度と思われる港町リトルトンでは、937ガル、3キロ北側には最大の2200ガルというデータがあります。また市街地で最大加速度の1850ガルを記録した地点から北には1052ガルというデータがあります。これら強震動を観測した地点が北から南方向にほぼ一直線に並んでいますので、この方向に強力な地震動を生じさせた断層運動があったのだろうと思います。非常に狭い範囲で強震動が発生していたことが分かります。2200ガルの地点から1850ガルの地点まではほぼ5キロ離れています。ここはエイボン川のポンプステーションだそうです。この場所から937ガルのリトルトンまでは約10キロ。この間が震度8以上を記録した地帯と思われます。

なお、ニュージーランドの地震階は12段階(改正メルカリ震度階)です。今回の最大震度は震度階9または10(恐慌状態、石造建築は深刻な被害を受け、あるものは倒壊する。家が基礎から動くこともある)に達したと思われます。なお、これは気象庁震度階で6弱から7に相当します。

大聖堂はクライストチャーチの本当に真ん中にありますが、ここは市内でも大きな揺れを観測した地点で、付近の記録から判断すると、800ガル程度はあったものとみられます。

国道74号に沿うように強震動地帯があるように見えます。これは阪神淡路大震災と同様の「強震動の帯」があるようです。

なお、知られているプレート境界の位置は市の北側郊外なので、これが動いたのではなさそうです。

震源が浅いことから、周期0.1秒から0.3秒程度の短い波の地震波が非常に強いパルス状となりほとんど減衰しないで建物を破壊したように思います。

今回の地震が注目されているのは、日本人の行方不明者が多数出ていることと在住者が非常に多いことに尽きると思います。ニュージーランドの地震としては最大ではないですが、人的被害では最大になる可能性はあります。

とはいえ、プレート境界にある列島としては「標準的」な規模の地震です。被害が多かったのは大都市直下であったからです。大都市であるから人が多く、発生時刻が昼時なので都市部の人口はピークで、さらに多数の建築物に大勢の人が居るため、その中には耐震性の低いものもあり、これらの倒壊により中にいる人はもちろん、路上の人にも重大な被害を与える確率が飛躍的に高くなります。

もう一つ注目すべきことは、この地震が2010年9月に起きたカンタベリー地震の最大余震である可能性があることです。五ヶ月後の最大余震が最も大きな災害を引き起こしたとすれば、いままで考えられていた地震の危険性評価を考え直さなければならないのではないか、そういう問題提起と言えるのです。 

余震は地震の規模にもよりますが内陸直下型のマグニチュード7以下であれば一般に本震の後一ヶ月程度で終息し、その後は復旧活動に集中できることが多いのですが、五ヶ月後に最大余震が来ることもあるとなれば、前回の地震により一定以上の被害を受けた建築物は使用禁止とすべきですし、補修だけでなく、資金を集中投入してでも行耐震補強をう必要があります。

 もっとも、このような最大地震が起きること自体が予想外であるはずはなく、予想の範囲だったけれども、これまでは実際に大規模な災害になるといった実例がほとんどなかったため想定外になっていただけとも言えます。

さて、こういう地震が起きたときに、一番真剣に考えなければならないのは原発などの重要危険設備の耐震安全性に問題がないかということですが、ものすごい大問題をかかえています。

こういうシミュレーションが必要だと思います。

例えば各地の原発などで中越沖地震で揺さぶられた直後に、今回のクライストチャーチの地震波を入力しても「閉じ込める」機能は維持できて「冷やす」ことが可能かどうか。

東京大地震研究所の纐纈一起教授は「今回のような地震は日本中どこで起きてもおかしくない」と言い切りました。つまり原発直下で起きてもおかしくないわけです。

今回の地震については、ニュージーランドの地震なのでマグニチュード6.3の地震というのはリヒタースケールです。日本で使われる気象庁マグニチュードにするとたぶん6.5を下回るくらいになるのではないかと思います。 

ただし、マグニチュードの基準が違うと比較できません。国際的によく使われるマグニチュードに「モーメントマグニチュード」という物差しがあります。

これで表すと今回の「2011カンタベリー地震」はマグニチュード6.07から6.1と評価されています。(東大地震研究所http://outreach.eri.u-tokyo.ac.jp/eqvolc/201009_nz/#20110222EQ)

 兵庫県南部地震も気象庁マグニチュードでは7.3ですが、モーメントマグニチュードでは6.9です。ここから比較すると、6.1の地震と6.9の地震の規模の差は0.8すなわち約16倍程度と考えられます。

原発が想定する「最低限の」地震と同程度が起きたという意味では、やはり指標的な意味を持つと同時に、マグニチュード7の2010カンタベリー地震、これはいわば兵庫県南部地震級ですが、これの最大余震に今回程度の地震が直下で起こりうるとしたら、どういった被害をもたらすのか、誰も計算していないことを今させる必要があるのではないかと思います。

もちろんのこと、これは「最低限」です。

日本で最も大きな地震災害を引き起こすと考えられている、日本列島の太平洋側で静岡県富士川河口付近から遠く高知沖を抜けて九州に達する「東海、東南海、南海地震」の連動発生において予想される地震はマグニチュード8.6(1707宝永地震)、その最大余震は今回の地震よりももっと遙かに大きなものだと思いますから、浜岡などは遙かに巨大な最大余震を含めた解析が必要です。

その他の原発でも、基準地震動Ss [註] の後に、大きな余震を想定して、施設設備の一部が破壊された後に大きな余震で再度打撃を受けることを想定しなければならないということです。

よく言われる説明に「包絡(ほうらく)している」という言葉があります。つまり耐震計算上Ssを想定していればそれ以下の地震に対しても十分持つという「一見正しそうな」主張です。しかし実際に起きていることは、Ssにさえ達しない遙かに小さい地震でさえ、重大な設備の損傷があり、さらにその後にSsが襲ってくる(この場合は最初の地震は「前震」です)とか、またはSsに達しない地震でも損傷を受けた後に繰り返し襲ってくる場合があるということです。つまり問題は「現実にも十分起こりえること」が想定がされていないことです。

ニュージーランドには原発がありませんので、そのような観点からの現地報道はありません。それをいいことに、国や電力はこの地震と原発耐震性の問題点を結びつけるような「まともな」議論はしないと思いますから、いま問題提起することが重要です。(了)

 [註] 基準地震動Ss2007年9月に改定された「耐震設計審査指針」において、それまでの「設計用限界地震」「設計用最強地震」に変わり、過去の歴史や周辺地域の地震地帯構造で起こりえると考えられる耐震設計用の最大地震を想定し、それらの地震により発生する地震動を仮想的な地震として耐震評価計算に使う。