アメリカの反核活動家の視点、「ガイアツ」としての福島
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福島原子力発電所の空前の事故が始まってから二カ月経った今、東京電力や菅政権が最初からメルトダウンの状況を知っていたこと、その他、人命に関わる多く の重要な情報を隠して国民に嘘をついてきたこと、原子力発電がなくても電力需要を満たせること、そして主流報道機関による権力監視能力が骨なしであること などが次々と明らかになってきている。日本の政治権力構造内の人脈には原発のない未来を構想する力がないようだ。浜岡についてさえ「廃炉」と断言できない でいる。しかし、地球規模で放射能汚染を撒き散らす日本に対して、米国から圧力がかかって菅政権官僚の発言内容にも影響がでていることが最近明らかになっ た。福島原子力発電所をめぐる日本国内の政治的攻防は海外でどのように見られているだろうか。
今回の速報で紹介するハーベイ・ワッサーマンは、わたしが七〇年代後半に参加していた「ロッキーフラット・プルトニウム核弾頭工場閉鎖運動」でも大きな役 割を担った筋金入りの米国反核市民運動の活動家だ。彼のような立場にある人間にとって、福島原発事故は米国内の世論を動かすための大きな効力を持つ貴重な きっかけとなる。
いや、米国だけではない。ドイツでもフランスでも、今の日本の状況や浜岡停止の決断を「ガイアツ」として活用し、それぞれの国民が世論を変えようと大きな うねりを生み出している。英国ではインディペンデント紙が浜岡停止を受けてセラフィールド廃業キャンペーンを推進中[注*]である。諸外国の市民たちが 「日本のまねをして」「日本の災害を教訓に」という物言いを使って原発をやめる動きを盛り上げているとき、日本の市民運動もまた世界市民運動に連帯する大 きな展望を持って「諸外国の手本」になれるような世論を盛りたてていくことができるのではないだろうか。米国内の世論を動かすためにハーベイ・ワッサーマ ンが展開する論拠や論旨の中には、日本の反核運動を推進する上で参考になる視点や国際的な反原発運動との連帯の糸口も見つかるのではないか。
[注:セラフィールド再処理工場のMOX燃料の顧客は浜岡だけである]
TUP速報を支援し、翻訳活動を続けるパンタ笛吹氏の連続投稿をお届けする。
(宮前ゆかり/TUP)
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神奈川県でとれた「足柄茶」の茶葉から基準値(1キロあたり500ベクレル)を越えるセシウムが検出され、出荷を自粛し、回収も進めているという。
5月12日の読売新聞では、「静岡茶葉からセシウム……健康影響ないレベル」という見出しが目についた。
菊川市でとれた茶葉10グラムを90度のお湯でたてた「飲用茶」から4.32ベクレルのセシウムが検出されたが、静岡県は「健康への影響を心配するレベル ではない」とし、茶農家の男性は「あくまでも基準値以下。消費者には安心して茶を飲んでほしい」と語った、という記事だった。
茶農家の方々には申しわけなく、風評被害をあおるつもりはない。しかし上記の飲用茶の放射能レベルでもすでに米国の安全飲料水法が定めた最高汚染基準値の約80倍だ。放射性セシウムの半減期は30年という。特に微量の放射性物質でも影響を受けやすい妊婦や幼児が心配だ。
さて、海外のメディアの論調は日本の原子力政策の閉鎖性に対して厳しいものが多かった。ひさしぶりに日本を、しかも菅直人首相を評価するコラムが掲載された。
著者のハーベイ・ワッサーマンは1970年代から環境問題に取り組んでいる代替エネルギーの先駆者だ。先月、コロラド州ボルダーで開かれたワッサーマン氏の講演会に行ったが、福島原子力発電所事故の危険性と、原子力に頼らない未来について熱く語っていたのが印象的だった。
翻訳・前書き:パンタ笛吹
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日本にならって、新たな原子力発電所を造るのを止めよう
ハーヴィー・ワッサーマン著
2011年5月11日(水曜) コモンドリーム
日本はこれから先、新たな原子炉を造らない。この発言は、世界の原子力発電業界にとっては手痛い打撃であり、未来のエネルギー政策の大きな分かれ道になりえるだろう。
菅直人首相は、原子力エネルギー計画について、「いったん白紙に戻して議論する必要があるだろう……再生可能エネルギーを基幹エネルギーに加える」と述べた。
日本では、風力発電だけでも40基の原子力発電所の替わりになり得るし、これからはおそらくそうなる方向に向かうだろう。
米国は日本に倣わなければならない。2012年度米政府予算に組み込まれようとしている、新たな原子炉建設に向けての360億ドル(約2兆9千億円)の補助金融資法案を廃案にしてしまえばいいわけだ。
ミシシッピー川からロッキー山脈までに広がる土地に風力発電施設を多く設ければ、全米の電力需要の300%をまかなうことができるだろう。これは風力発電だけでの話で、太陽光発電、地熱発電、潮力発電、維持可能なバイオ燃料などは含まれてはいない。もし米国が、新たな原子力発電所の建設計画を放棄したなら、さまざまな再生可能な動力源を開発できるようになり、アメリカのエネルギーの未来を変えることになる。
日本では、福島原子力発電所の事故が起きる前までは、新たに14基の原子炉を建設する計画があった。それまで日本全国に全部で55基の原子炉[訳注1]があったが、地震と津波で6基[訳注2]が停止に追い込まれている。柏崎原子力発電所では、5年ほど前に地震に見舞われ、7基ある原子炉のうち今でも3基が停止状態にある。菅首相はまた、地震の震源域に位置する浜岡原子力発電所の3基の原子炉の運転停止を要請した。
[訳注1:実際には54基]
[訳注2:実際には女川3基、福島第一6基、第二4基、東海第二の計14基]
日本の原子炉の総数は、米国、フランスに次いで世界第三の規模を保っている。米国の商業用原子力発電所建設のほとんどを請け負っているゼネラル・エレクトリック社やウェスチングハウス社原子力技術部門のうち、少なくともその一部分は日本の企業により運営されている。原子炉圧力容器や他の主な構成部品が日本で製造されている。
カリフォルニアにある4基の原子炉もまた震源域に建てられており、津波の被害にも遭う可能性も高い。ロスアンジェルスとサンディエゴの中間に位置するサンオノフレ原子力発電所では、半径50マイル(80キロ)範囲内に750万人が住んでいる。サンオノフレの稼動中の2基と停止中の1基の原子炉は、高潮ラインの1マイル(1.6キロ)以内に位置している。
サンルイス・オビスポの近くにあるディアブロキャニオン原子力発電所は、いくつかの地震断層の近くに建てられている。また最近、2基の原子炉から2マイル(3.2キロ)も離れていない地点を走っている新たな地震断層が発見されたばかりだ。
マンハッタンの北方35マイルにあるインデアンポイント原子力発電所の2基の稼働中原子炉を含め、米国では数多くの原子炉が地震断層近くにあり、かなり危険である。クリーブランドの東にあるエリー湖畔に建てられたペリー原子力発電所は、1986年1月に起きた地震により被害を受けた。
福島原子力発電所での複数の爆発や部分的なメルトダウン(炉心溶融)、そして使用済み核燃料プール付近の火災などにより、膨大な量の熱量が大気中に放出され、地球温暖化をますます加速させ、生態系に悪影響を与えている。
高濃度の放射性降下物は、福島からはるかに離れた場所でも検出されている。また、何百万ガロンという高濃度に放射能汚染された汚染水が、すでに海中に放出された。
放射性降下物はまた、米国中の雨水、牛乳、そして野菜からも検出され、数百万人というアメリカ人の健康を脅かしている。特に小さな子どもたちや、子宮内の胎児は微量の放射性物質でも影響を受けやすい。
現在、福島原子力発電所の4号機は崩壊の一歩手前まで悪化しているように見える。また、少なくとも一つの使用済み核燃料プールで核分裂が続いているようだし、複数の原子炉もまた溶融している可能性がある。
福島原子力発電所内では放射線量が非常に高いので、放射線業務従事者は数年以内に死ぬことを宣告されているようなものだ。そこで働く人びとの多くは、それが自殺行為だということを承知で福島原子力発電所に来ている。この惨事が最終的に収まるまでは、まだ何年もかかるだろう。
浜岡原子力発電所に運転停止を要請し、未来の原子力政策を白紙に戻すと発表した菅首相の決意は、周りにショックを与えた。福島原子力発電所事故が起きた当時は、菅首相は対応能力が弱いと多くの人びとから非難されたが、今日、彼は日本のエネルギー政策の未来を見直す決断を下した。
日本は海外から輸入する化石燃料に依存してはいるが、大手企業は風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギー技術に多大な投資をしてきた。これらの企業がこれから先、日本の代替エネルギーを担う先駆者となるだろう。
ドイツでは、福島原子力発電所事故の後、大規模な反原発デモが起こり、選挙では与党は反原発を掲げる候補者に大敗した。それを受け、アンゲラ・メルケル首相は古くなった7基の原子炉を廃炉にし、2020年までにはもう10基を停止させ、ドイツを原子力発電所のない国にすると発表した。
この数十年の間、ドイツは風力発電、太陽光発電、その他の代替エネルギーを、他のどの先進産業国よりも熱心に押し進めてきた。その結果、莫大な利益もあげてきた。
米国を見ても、原子力発電業界は打撃を受け続けているが、再生可能エネルギー業界は大繁盛している。今週のことだが、ヴァージニア州で建設される予定だったフランス企業経営の原子力発電構成部品工場が2年間延期になった。これは延期とはいうが、ほぼ計画の取り消しを意味する。
サウスカロライナ州では、50億ドル(約4千億円)の税金を注いで建てられたプルトニウム混合のMOX燃料製造施設は、いまだに顧客が見つからず稼動にこぎつけていない。今では、このプロジェクトの本来の目的や、実効性を疑う声が高まっている。
全体的に見れば、原子力発電に関するビジネスはすでに芳しくなかったが、福島原子力発電所の事故のために、ますます難しくなった。日本企業が投資するはずだったテキサス州での原子力発電所建設計画は、今では破棄になったも同然だ。同じようにフランス企業が後ろ盾になったメリーランド州の計画もこれ以上前に進まないだろう。
オバマ政権は新たな原子炉建設に向けての360億ドル(約2兆9千億円)の補助金融資法案を通そうとしているが、どの原子炉建設計画がその融資を受けるほど信頼できるのか、はっきりとしていない。
そうこうしているうちに、バーモント州、ニューヨーク州、ニュージャージー州などにある旧式原子炉を停止に持ち込もうとする運動に火がついて、激しい戦いが繰り広げられている。福島原子力発電所一号機とほぼ同じデザインの原子炉が約24基、米国で稼働している。それらの原子炉を廃炉にせよとの人びとの要求は拡大し続けている。
私たちは原子力発電に見切りをつけ、グリーンで再生可能な地球を手にする必要がある。
原子力発電は地球温暖化を悪化させ、生態系を破壊するだけでなく、経済をも破滅に追いやるものだ。
原子力発電業界は、企業の十分な投資を得られないし、実効性のある損害保険も受けられないし、廃棄物の処理もできないし、またエネルギー市場での競争に太刀打ちできはしない。その上、福島で起きたような惨事が絶対に起らないとは保障もできないし、信頼できるエネルギーを将来もずっと供給することもできない。
もし私たちが360億ドルの補助金融資法案を廃案に持ち込むことができれば、太陽、風、潮流、波、地熱、などをエネルギー源とした再生可能な理想郷、「ソーラートピア」が可能になるだろう。
先駆者であるドイツやデンマーク、そして今では日本も参加して、私たちは原子力発電所のない未来への第一歩を踏み出した。この道は私たち人類が生き延びる道であり、また新たなる繁栄へと導いてくれる道だ。
さあ、補助金融資法案を廃案に持ち込もう。ヴァーモントヤンキーやインデアンポイントのような旧式で老いぼれた原子力発電所を停止させよう。そして、本当にグリーンで再生可能な未来を共に築き上げよう。
原文リンクおよび参照リンク:
http://www.commondreams.org/view/2011/05/11
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20110512-OYT1T00299.htm
http://www.asahi.com/politics/update/0510/TKY201105100381.html