TUP BULLETIN

速報914号 気候変動、首まで泥まみれ

投稿日 2011年5月23日

五月下旬のコロラドは雨が続いている。我が家から眺めるロッキー山脈のロングスピーク山の尾根にはもう雪があまり残っていない。一〇年前には、尾根の雪は七月中旬まで残っていたことを思い出す。パンタ笛吹氏の続投。今回は気候変動とアメリカのエネルギー政策についての論考です。(宮前ゆかり/TUP)



異常気象にもめげず、化石燃料ハイウェーを突き進むアメリカ

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5月15日に開かれたトロントマラソンに参加するため、カナダのトロントに行ってきた。あいにく滞在期間中、毎日雨が降り続いた。レースで知り合ったカナダ人何人かと話したが、「異常気象」という言葉をよく聞いた。



ホテルのテレビでは、カナダのマニトバ州が大雨で浸水した様子と、ミシシッピー川の氾濫の映像が連日映し出されていた。



私の住んでいるコロラド州ボルダーでも、「気象台始まって以来の……」という言い回しをひんぱんに耳にする。いつもなら1年で最も降雪の多い3月が、今年はほとんど雪が降らず、3月16日には摂氏24度という気象台始まって以来の高温を記録した。



ギャラップ社の意識調査によると、地球温暖化が人間活動の結果と信じている人間の割合は、日本はトップの82%だが、米国は35%たらずだった。また、米 国人の4割以上が「地球温暖化問題はおおげさ」と考え、「温暖化による影響は今後もまったくない」と信じている人は16%に上るとのギャラップ社の別の調 査もある。



グレン・シェラー氏のコラムの表題は、ピート・シーガーのフォークの名曲「腰まで泥まみれ」をもじったものだ。軍隊の渡河演習で「腰まで泥まみれ」になっ ても隊長は「進め」と号令をかけ、ついに隊長は溺れて死んだ実話が元になっている。ベトナム戦争に深入りする当時のアメリカに警鐘を鳴らした反戦歌だ。



いま米国の一部は、温暖化の影響で首まで泥まみれになっている。だが政府や大企業は「進め」と号令をかけ続けている。



翻訳・前書き:パンタ笛吹

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気候変動、首まで泥まみれ
グレン・シェラー著
2011年5月17日(火曜) コモンドリームCommonDreams.org

ミシシッピー川の水位が、米国史上見たこともないほど増している。テネシー州メンフィスからメキシコ湾にかけて、護岸堤防から溢れ出る勢いで沿岸の街や村を脅かしている。米中西部に降り続いた90インチ(約2.3メートル)に上る記録的な豪雨により浸水した地域は、コネチカット州よりも広い範囲にわたる。

一部の人びとはこの洪水が、人為的な地球温暖化のせいで起きたと非難している。しかし気象学者の誰に聞いても、「どんな気象現象でも地球温暖化だけに起因するものではない」と教えてくれるだろう。

一方、テキサス州はまるで炎に包まれているかのようだ。テキサスの人びとは記録的な干ばつを7カ月にわたって耐え忍んできた。今ではテキサス州の98%が干上がっている。山火事で220万エーカーがすでに黒く焼けこげてしまった。これまで誰一人として、これほどひどい干ばつを見たことがない。

もちろん、オバマ政権の役人は、「どんな気象現象でも気候変動だけに起因するとは言えない」と喜んで証言するだろう。

米国西部地方では、通常の年にくらべ200%もの驚異的な大雪が降り、記録的な積雪となった。この異常な積雪は、ユタ州、ワイオミング州、モンタナ州などに深刻な洪水の危険をもたらしている。またコロラド州東部、ニューメキシコ州、そしてアリゾナ州では厳しい干ばつが続いており、山火事のシーズンに向けて深刻な問題になっている。

もちろん、茶会党(ティーパーティー)の新人議員たちは、「どんな気象現象でも人為的に生じた気候変動だけに起因するとは言えない」と主張するだろう。

そして先月、米国南東部をこなごなに壊した312個の竜巻を誰が忘れることができるだろう。記録的な228個の竜巻が、たった1日で発生したのである。それらの殺人的な竜巻は、中には幅数キロに及ぶものもあり、いくつかの州をまたいで荒らしまくった。

もちろん、エクソンモービル社やコック兄弟の支援を受けた気候変動懐疑派の学者は、「どんな気象現象でも人為的に生じた気候変動だけが原因だと解釈することは絶対できない」とあなたを叱りつけるだろう。

裏庭に出て、空に向けて親指を立てるか、今日どんな花が咲いているのか見回してみると分かるだろう。あなたや私が住んでいる地域が、あなたのおじいさん、おばあさんが体験してきた時よりも、より暑くなるか、より乾燥するか、無惨な大雨に見舞われてより濡れそぼっているか……、時代が「急速に」変わっているのが分かるだろう。

しかし、フォックスTVニュースの解説者たちは、「どんな気象現象でも人為的に生じた気候変動だけのせいにできるものはない」と断言するだろう。

しかし、何千もの異常気象が起きている点についてはどうだろう? 今まで例を見ない衝撃的な熱波や記録的な干ばつ、そして前代未聞の大洪水が続けざまに起きている。冬が暖かくより短くなり、夏がより長く残酷なまでに暑くなっている。極地の氷原は融け、氷棚は崩れ落ち、氷河はものすごい早さで後退している。気候学者たちが20年前に予告していたのと全く同じ現象が今起きているのである。

ただ違うのは、当時の科学者たちは、これらの壊滅的な異常気象が人類を襲うのは2050年かそれ以降のことだと予測していたということだ。彼ら科学者たちは、グリーンランドの氷床が大量に融け始めるのは2100年以降からだと予想していたが、グリーンランドの氷床は*いま*すでに大量に融けている。
 
地球上の珊瑚礁は*いま*、死に絶えつつある。食糧生産は*いま*、減少している。食糧価格は*いま*、記録最高値を更新している。すべて、気候変動のために。

それでもわが米国は知らぬふりをしている。もっとひどいことに、麻薬の仕入れ先を失った中毒患者が家中を捜し漁るように、どんなに劣悪な状態にある化石燃料でもかまわず嗅ぎ回っている。カナダのオイルサンド(油砂)を強引に掘り返し、北極海やメキシコ湾深海油田の採掘の準備を進め、アメリカの田舎の広大な地域に、天然ガスの掘削リグを建てまくり、まるで針山のような景観にしようとしている。

この春オバマ大統領は、環境汚染の最悪業種である石炭産業に対して、巨大な拡張計画を立てるよう要求した。新たな石炭採掘事業を推進するオバマ大統領の計画が進めば、気候変動の排出量が現在の生産量より50%以上も増加してしまう。

地球温暖化のリスクなんか、くそくらえだ。禁断症状なんだから、とにかくエネルギー資源を注入しなくては! というわけだ。

一方、ミシシッピー川は滔々と溢れ続けている。テネシー州フレイザー在住の洪水被災者、タマラ・ジェンキンスさんはCNNニュースのインタビューにこう答えた。

「こんな大洪水なんて、見たこともありません。次に何が起るやら、これからこの氾濫がどこに向かうやら分からなくて、怖くてたまりません」

まあ、ジェンキンスさん、あなたは首まで泥に浸かり、次に何が起るか分からないと嘆いてますが、化石燃料産業やオバマ大統領や議員たちには、状況がよく分かっていますよ。彼らはいつものように、わが国のエネルギー政策に確固とした自信を持っており、「もっと前に進め」と言ってます。

結局のところ、ジェンキンスさん、どんなに馬鹿な人間であろうと「聖書に出てくるほどの大洪水でも、人為的に生じた気候変動だけが原因ではない」ということくらい知ってますよ。何だったら、「ノアの方舟」のノアに聞いてみたらいいでしょう。

*著者のグレン・シェラー氏はブルーリッジ・プレスの上級編集者。連絡は、scherer@blueridgepress.comまで。

原文リンク:
http://www.commondreams.org/view/2011/05/17-14
http://probeinternational.org/library/wp-content/uploads/2011/04/Gallup-Poll-Worldwide-Blame-for-Climate-Change-Falls-on-Humans.pdf