TUP BULLETIN

速報916号 アース・デモクラシー:母なる地球の権利を守る

投稿日 2011年6月3日

◎自然支配の思考を転換する




4月22日を地球のことを考える日「アース・ディ」と呼び、私たちを取り巻く地球環境について人びとの意識を向けようという運動が日本でもすっかり定着してきました。そのアース・ディにデモクラシーナウ!ではヴァンダナ・シヴァとモード・バーロウをゲストに迎えてインタビューがおこなわれました。インタビューではカナダ出身のバーロウが、国連で始まった水の権利の概念に関する議論と対話について報告しています。



ヴァンダナ・シヴァは2010年11月、シドニー平和賞の受賞スピーチで、イラク戦争、アフガニスタン戦争よりもっと広く大きな、「自然に対する戦争」が戦われていると言い、本稿でも、原子力は自然に対する戦争であり、自然とそこで生きるすべてのものに対する暴力にほかならない。空気も土も海も汚染されて、すべてのいのちがないがしろにされている、と訴えています。



福島原発事故の現在を目の当たりにしている私たちに、この言葉は胸の奥深くまで届く言葉です。しかし日本政府と、ヴァンダナの出身国インドとの原子力協力協定は2010年に交渉が開始され、いまだ締結をみないまま、まだまだ発効の機をうかがい現在でも進行中です。福島原発の現状をかかえ、インドと原子力協定を結び、インドの自然といのちの破壊にまで手を貸すなどもってのほかです。



両氏のインタビューで、自然の権利、水の権利、地球の権利、いきものの権利は決して表面的なものでなく、深く人間の権利と関わっていることが理解できます。



*インタビューはメールで配信するにあたって長文になりますので、メール配信は前後編に分けて行いました。



[翻訳・前書き 荒井雅子、キム・クンミ/TUP]

アースデイ・スペシャル:ヴァンダナ・シヴァとモード・バーロウが語る「母なる地球の権利」

2011年4月22日

エイミー・グッドマン:世界が「地球の日(アースデイ)」を祝う中、ボリビアでは自然に人間と平等の権利があることを認める世界初の法律が成立しようとしています。国連ボリビア代表団は、今週の「自然との調和」会議で、同様の法則を採用するよう国連に強く求めました。

ダヴィド・チョケワンカ:[翻訳]国連は地球観を根本的に変えつつあります。現在国連では、さまざまな問題よりも優先して、正式な国際「マザーアースデイ(母なる地球の日)」宣言に向けた議論が始まっています。また母なる地球の権利とはどのようなものかをめぐる議論もまもなく始まります。

グッドマン:今お聞きいただいたのは、ボリビア外相が国連の「自然との調和」対話についてニューヨークで行った発言です。

今週は、BP石油流出事故からちょうど一年でもあります。来週は、チェルノブイリ大災害から25年です。福島第一原子力発電所周辺の放射能レベルは依然として高いままです。こうした災害が繰り返される中、ボリビアをはじめとする南米諸国はいち早く環境保護策を採用しています。エクアドルも自然保護決議を採択しました。

今日は、二人の高名な環境正義活動家にお話をうかがいます。モード・バーロウとヴァンダナ・シヴァです。モード・バーロウはカナダ最大の市民団体「カウンシル・オブ・カナディアン」代表であり、「ブループラネット・プロジェクト」の創設者の一人で、「フード&ウォーター・ウォッチ」理事長でもあります。ヴァンダナ・シヴァは、世界的に高名なインドの環境運動指導者、フェミニスト、思想家で、『アース・デモクラシー』、『生きる歓び―イデオロギーとしての近代哲学批判』をはじめ、多くの著書があります。

まずヴァンダナ・シヴァさんに日本の原子力大惨事についてお聞きします。日本の惨事はインドにとってどのような意味を持つのでしょうか。インドでは大規模な反原子力デモが発生し、参加者の一人が殺害されました。何が起こったのかご説明ください。

シヴァ:インドにはとても強い反原子力運動があります。インドの運動には他の運動と違うところがあります。原子力とは究極的には原子を分裂させて水を沸騰させることですが、インドの運動は単にそうやって原子の分裂で水を沸騰させ、その過程で膨大な放射性有害物質を生み出す愚かさに反対しているだけではありません。インドでは原子力には土地収奪という典型的な暴力が絡んでいます。
[インド西部]西ガーツ山脈のふもと、インド有数の肥沃な土地、[マハーラーシュトラ州]ラトナギリ県で、世界最大となる原子力発電所の建設計画がフランス企業アレヴァによって進められており、そのために、人々の権利がことごとく侵害されています。住民が地元で起こることに決定権をもつ地域民主主義もです。地元行政当局はみなあきらめて受け入れました。抗議は続いています。そしてわずか二日前、一人が殺されました。警察が平和的なデモに発砲したのです。ですからインドでは代償はさらに高い。核有害物質というコストに加えて、人命という代償を払ったのです。23日から26日までデモが組織されています。私もデモ組織団体に入っています。インドで最も古い原子力発電所のあるタラプルから、巨大な原子力発電所パークの建設が予定されているジャイタプルまで行きます。

グッドマン:人が住んでいるのですよね。移住させられるのですか。

シヴァ:住んでいます。こうした場合に典型的なのですが、不毛な土地でだれもいないと彼らは主張します。ですがここはインドでもっとも肥沃な土地の一つです。すばらしいアルフォンソ・マンゴー、あの見事な、巨大でおいしいマンゴーの原産地です。漁場は豊かで、草木も生い茂り、人々は裕福です。自然が豊かだからです。これが西ガーツ山脈です。モンスーンが水を注いでくれる。海岸地域はたいていさらに生産力に富み、肥沃です。

同じような抗議デモが、韓国企業POSCO社の製鉄工場をめぐっても起きています。ですが工場の所有者はもう韓国人ではなく、ウォール街です。世界経済を危機に陥れたウォール街の金融機関が所有しているのです。面白いことに、インドではウォーレン・バフェットといえば寄付、「寄付という芸術」の生みの親ということになっていますよ。バフェットはPOSCO社の大株主です。POSCO社は多くの人を移住させようとしていますが、人々は6年間「土地を渡すつもりはない」と言い続けています。

バフェットは昨年ビル・ゲイツとともに創始した寄付呼びかけ活動Giving Pledgeの一環として、先月ゲイツとともにインドを訪れ、インドの超富裕層を相手にフィランソロピー指南を行った。

とても大切だと思うこと、認識する必要があると思うことはまず、私たちが自然に権利を与えるのではないということです。自然にはもともと権利があるのです。そしてたいていの場合、ジャイタプルやPOSCO工場の地域のように世界のほとんどの場所で、自然の権利と人々の権利は一体となっています。人々は「ここは母なる土地」と言う。これは不可思議な考え方ではありません。私たちの時代に、もっとも大きな意味をもち、もっとも力強い、民主的な考え方なのです。

グッドマン:ジョージ・モンビオについてお聞きしたいと思います。おそらくさまざまな問題であなたと意見が一致する相手だと思うのですが、最近、原子力の問題を論じて、こう言っています。

モンビオ:そうですね、明らかに、福島で起こった――起こっていることからして、福島第一原子力発電所周辺の地域については大きな懸念をもっています。私たちの目の前で起こっている一連の出来事は、危険で恐ろしく、精神的に強いショックを与えるものです。

――ですが私としては、福島の事態に対する世界の反応として、世界中で原子力発電所を閉鎖する、新規の原子力発電所建設を中止する、ということになるのをとても懸念しています。そうなれば、かわりに石炭が使われる。石炭は原子力より何百倍も危険です。もちろん気候変動は大きな理由ですが、石炭が危険な理由は単にそれだけではない。労災と地元住民に対する汚染の影響があります。労災だけを見ても、死者も負傷者も、これまで経験したどんな原子力事故をもはるかに上回る数です。中国だけで去年、炭鉱の労災事故で2300人が死亡している。炭鉱事故だけで死者2300人ですよ。一日に6人です。つまり、中国の炭鉱の一週間の公式死者数はチェルノブイリの25年間の公式死者数よりも多い。そしてその上に、何十万人もの人々がほんとうにつらい肺の病気にかかり、苦しみながら非
常にのろのろと悲惨な死を迎えます。

チェルノブイリ事故による死者数は、旧ソ連政府の公式発表では30数人、IAEAの公式見解では約4000人だが、これを過小評価と批判し、10万人、100万人近くと推定する研究がある。

――現状に満足しろとは言っていない。福島で起きていることに強い懸念をもつのは絶対に正しいと思います。でも視野を広げて欲しい。私が言いたいのは、一つの技術が悪いからと言って、そのかわりにそれよりはるかに悪い技術を使うべきではないということです。残念ながらそうなりそうだからです。

シヴァ:本当に必要なのは、石炭を使わず、原子力も使わない未来です。太陽エネルギーは非常に豊富ですが、まだやったと言えるほどの利用を始めてさえいません。再生可能な代替エネルギーは投資を振り向けさえすれば、手の届く価格になり、分散型のシステムができます。原子力は集中型システムでなければできません。私たちがジャイタプルで抗議をし、発砲されて死者も出た中で目にしているとおり、原子力発電所用地は完全な警察国家と化してだれも集まることもできず、選ばれた役人でさえ会合も開けず、民主主義が踏みにじられています。エネルギーのために必要なのはそんな選択肢ではありません。

モンビオが間違っていると私が思うのは、各国政府も含めて世界の何百万人もの人たちの考え方を切り捨てていることです。ドイツ政府は「もう原子力発電所を建設しない」と表明しました。中国もすべて凍結しています。こうした国々は頭がおかしいわけではないし、非主流派でもありません。私が個人的に残念に思うのは、モンビオのような友人が世界でいちばん賢いのは自分たちだと考えていることです。彼らはコラムをもっていますから、みなの考え方を変えられるのです。
原子力の有害性が認識されたのはずっと前です。私の人生はインドの原子力産業から始まりました。姉が害に目を開かせてくれたのです。放射線生物学さえ教えられたことがありませんでした。教えられたのは物理学、核物理学だけでした。それが非常に偏った知識だということに気づいたのです。

シヴァはカナダで博士号を取得する前、ムンバイの実験原子炉で研究を行っていた。シヴァの姉はインドで医療活動を続けているマイラ・シヴァ博士。

グッドマン:物理学者でいらっしゃるのでしたね。

シヴァ:そうです。それから理論物理学をやりました。その後量子理論の基礎をやりました。母なる地球の権利で私がとても大切に思っていることは、人間と自然の分断を乗り越えつつあるということです。分断思考はデカルト的思想に組み込まれ、自然はあちら、われわれ人間はこちらにあると考えます。こうした分断はまた、昨日、国連「自然との調和」会議でコーマック[・カリナン]が指摘したものとも相通じます。コーマックはこう言っています。「私の人生はアパルトヘイトとの闘いで始まった。アパルトヘイトは分断を意味する――肌の色に基づく分断である」。分断というのは過去の病だと私は考えています。知的枠組みで言えばいわば恐竜のようなものです。分断は非常に人為的な押し付けなのです。世界のほとんどの文明で、人間の歴史の大半を通じて、世界観は関係性と絆から成り立ってきました。母なる地球の権利が目を開かせてくれることがあるとすれば、それは私たちがみな結びついているということです。この結びつきの中では、原子力がクリーンだというような傲慢な解決はできません。放射能は目に見えないからといってクリーンにはなりません。福島はチェルノブイリのようになってきており、日本政府はそれを認識しつつあります。

グッドマン:モード・バーロウさん、アースデイにニューヨークに国連においでになった理由をお話しください。

バーロウ:今週、国連で「自然との調和」決議に関する討論があります――対話と呼ばれていますけれど。決議はボリビア国連大使が提起し、国連総会で採択されたものです。国連で水の権利の概念に関する議論と対話が始まるのです。一年前の「母なる地球の日(マザーアースデイ)」に、コチャバンバで「母なる地球の権利に関する普遍的宣言」の草案を決定しましたが、そのときにいた者が大勢来ています。今回、その宣言を国連に提起しに来たのです。この概念――「母なる地球の権利に関する普遍的宣言」がいずれは「普遍的人権宣言」に伴う宣言になって欲しいと考えていますが、まだそこまでは行っていません。それもわかります。でも国連の加盟国内でも国連でもそうなることが目標です。この宣言を採用して話し合って欲しい。すばらしい本もできました。『The Rights of Nature: The Case for the Universal Declaration on the Rights of Mother Earth(自然の権利――「母なる地球の権利に関する普遍的宣言」はなぜ必 要か)』です。ですからこれは、まさにヴァンダナが言っていることについて、広く議論する本当のプロセスの始まりなのです。

ボリビア中部コチャバンバでは「水戦争」が行われた。1999年世界銀行の指導で水事業の民営化が決定したが、市民が反対運動を組織、当局の弾圧による死者も出た末に2000年民営化は阻止された。

グッドマン:今日の世界で、水に対してどのような脅威がありますか。

バーロウ:ちょうど原子力が問題になっているところですから、水に対する脅威の典型例をお話しします。興味深いものです。自然の権利を認識しなければならないというのはどういうことかを示す、またとない例です――ヴァンダナは正しい。自然の権利は与えるのではなく認識するものなんです。その例というのは、日本の原子力発電所による放射能汚染の影響を受けた魚について、先日私が見た一つの報告です。報告は「心配要りません。人間の口に入るまでには、害はなくなっています」と言っていました。まるで問題になるのはそのことだけであるかのように。これは、大事なのは私たちだけだ、地球上の他の種など数に入らないという人間自己中心主義です。

私たちの世界では水に対する最大の脅威は、人間、近代的人間、「文明化された」人間が、水を自分たちの楽しみ、利益、便宜のための最大の資源とみなしていることであり、水に対してやりたい放題をやっていることです。捨てたいものを何でも水に投棄する。どこででも何でも勝手に栽培する。引きたいところに水を引いてくる。そして水を使い果たしつつあります。最新の報告では、2030年には世界の水需要は供給を40%も上回ると言われています。これがどれほど恐ろしい統計か、それがどれほどの苦しみを引き起こすのかを、人々が理解できているかどうか私にはわかりません。これを見て、何人かは――冷やかす人たちがいるのです。「なるほどね、ダニの権利、ネズミの権利ってわけだ」。右翼はこう言って私たちのやっていることを茶化す。ですが私たちがしているのは、生き残れるかどうかという話なのです。世界観、自然観、水に対する考え方を変えなければ、人間も他の種も地球上で生き残れるのか。水は私たち人間のための無尽蔵の資源ではない。水も――その他さまざまなものも、私たちみなに命を与えてくれる生きた生態系に欠かせない要素です。生き残りがかかっていると言うのはそういうことです。

グッドマン:カナダ最大の市民団体「カウンシル・オブ・カナディアン」代表モード・バーロウ、そしてインドの環境運動指導者ヴァンダナ・シヴァでした。シヴァの著書には『生きる歓び―イデオロギーとしての近代哲学批判』があります。1分間の休憩の後、アースデイのお話を再開します。

[休憩]

グッドマン:アースデイ、ワシントンDCの通りにいます。インドの高名な科学者で環境運動家のヴァンダナ・シヴァとモード・バーロウにお話をうかがっています。モード・バーロウは「カウンシル・オブ・カナディアン」代表で、著書に『ウォーター・ビジネス:世界の水資源・水道民営化・水処理技術・ボトルウォーターをめぐる壮絶なる戦い』があります。

グッドマン:昨年、コチャバンバでお会いしましたね。母なる地球の権利をめぐって数十万人が集まり、会議が開かれたのを報道したときです。母なる地球は現地では「パチャマナ」と言います。ボリビアとエクアドルがこの運動をリードしているのはなぜですか。

バーロウ:ひとつには、両国には自国民の意思の大部分を実際に代表する政府があるからです。そうなったらどんな気持ちがするか想像がつきません。カナダで選挙がありますが、頭を抱えるばかりです。お粗末な政府が再選されることになるでしょう。ですから一つの理由は、人々の要求に寄り添う政府があるということだと思います。

ですがアンデス山脈は溶けています。危機的状況です。先週出された米国科学者連盟の最新報告では、気候変動による深刻な干ばつが200万人の住民を脅かし、ボリビアの首都ラパスが重大な危機に陥っていると言われています。きわめて短期間に何か劇的な変化が起こらない限り、それを避ける道が見つからない。ラパスでは食糧が影響を受け、水の確保も影響を受けています。非常に差し迫っているんです。差し迫った状況の中、ボリビア大統領モラレスや国連大使パブロ・ソロンのような人たちはこう言っています。「みなさんから好かれようと嫌われようとかまわない。人気コンテストをやりに来たわけではない。ここに来たのは、私たちの住んでいる場所で起きている、人の生死にかかわる問題の話をするためだ。事はそれほど急を要する」。水の権利を認めさせる攻勢をリードしたのがボリビアでした。同じように、とても興味深いのは、カンクンでの合意にノーと言ったのもボリビアでした。カンクン合意は気候変動に対する解決として喧伝された市場モデルに基づくものでした。ですから――

グッドマン:市場モデルは何が問題なのですか。

バーロウ:市場は――ヴァンダナにも言いたいことがたくさんあると思いますが。でも事実上、国連は今、自然に巨額の値札を付けたところなのです。気候変動だけでなく、水の危機、森林の危機に対しても、答えは単に、いくらいくらという数字を自然に貼り付けて市場システムに組み入れることだという。そうなれば自然のすべてが、生き残るためにさまざまな用途との競争を強いられることになります。それは破滅へ向かうやり方に他なりません。世界で富を手にし各国で権力を手にした人間、自分たちは他の人より重要なのだ、自然より重要なのだと主張する人間のやり方です。

グッドマン:ヴァンダナ・シヴァさん、あなたはインドや世界中の企業に立ち向かってこられましたが、企業による自然の私有化についてお話しください。

シヴァ:自然の企業による私有化がもたらすものは、まず第一に、自然の尊厳、自然の優先権、自然の寛容さ、生命そのものを与えてくれる地球の寛容さを認識しなければならないというときに、錯覚の道をまっしぐらに突き進むということです。私たちと自然が別々にあると考えるだけでなく、自然を支配し征服するという考えを持ち続けているわけです。技術的な道具に頼り、原子力で自然を管理できるとするような考えです。いまや市場原理と商品化で自然を支配しようとさえしています。

どうしてそれが間違っているのか? 第一に、自然はあまりに豊かで多様だからです。私たちが理解していることはあまりにも少ない。だからどのような値段をつけるにしても部分的なものになります。全体を捉えられることはまずありません。私たちに食糧を与えてくれる土壌の有機的組織でさえ明らかになっていません。異なる種がどのように森の中で共生し驚くほどの生物多様性を創出しているのかわかっていません。自然の商品化は直線的なものになるでしょう。炭素吸収機能だけにかかわるものになるでしょうが、森の機能はそれだけではありません。企業が種の尊厳に考慮することは絶対にないでしょう。私がナヴダーニャをはじめて種子を保存しているのは、企業がいのちあるものに特許をかけようとしていることに気づいたからです。いのちは企業によって造り出されたもので
はありません。自らが造るのです。創造の一部です。

ナヴダーニャ:シヴァが創立したインドに本拠をおくNGO。生物多様性の保全、農民の権利、シードバンクなどを促進している。

自然の商品化にともなう第二の問題があります。それは人びとの生命を支える資源、特に貧しい人たちの資源を独り占めして、人びとの手の届かないようにするための新しい正当性を与えるということです。さて、自然の商品化という新しい考えについて何が見えるでしょうか。アフリカで、植民地時代に起こったどれよりもひどい、かつて経験しなかった大規模な土地の収奪があります。インドでの採鉱のための、原子力発電所のための、製鉄所のための土地の収奪は文字通り交戦地帯になっています。グリーンハント作戦も実施されています。私たちの仲間である、大切な、大切な友人のビナヤック・セン博士は終身刑で刑務所に入れられました。幸いなことにたった数日前に最高裁判所が彼を保釈を認めました。マルクスの文献を持っていたからといってナクサライトというわけではない、と言って。ガンジーの伝記を持っているからといってガンジー主義というわけではないのと同じです。

グリーンハント作戦:2009年にインド政府によって決行されたマオイスト掃討作戦。
ナクサライト:インドにおける武力革命主義をとなえる個人または集団のことを指す。

グッドマン:ちょっと待ってください。ご存知ない方が多いと思うので。デモクラシーナウ! のアンジャリ・カマットが週末をセン家で過ごし、ビナヤック・セン博士の報告をしてくれています。手短に彼の事件と重要性を説明してください。

シヴァ:いま言ったようにビナヤック・セン博士は大切な友人で、地方の先住民のために生涯をささげていている医師です。インドの一流医科大学のひとつで金賞を受賞していますが、村落で働く決心をしました。彼と妻のイリーナも先住民のために働いています。私は彼らが地域の野菜の種子を保存するシードバンクを立ち上げるお手伝いをしました。ナヴダーニャで私たちがやっているようなことです。ビナヤックは一次治療プロジェクトの立ち上げに取り組んできました。そして「市民的自由を求める人民連合」の代表でもあります。

彼の活動しているこの地域で資源が収奪され商品化とグローバリゼーションが起きています。現在はチャッティースガル州と呼ばれている新しい州ですが、鉱物が豊かで企業が鉄鉱石を求めにきているのです。また、採炭も行われています。それは企業が、いまやわが国の憲法で制度化された先住民の権利を侵しているという意味です。保全の対象となった地域では自分たちの地域に起こる出来事を先住民自身で決めることができるよう、パンチャヤット制が拡大適応されています。この法が適応された90年代のはじめ頃、私も公聴会に出席しましたが、先住民たちは次々に「金銭はいらない。領土が必要である。森林が必要である。故郷が必要である。母なる地球と共に生きていきたい」という決定をくだし始めました。そして暴力が始まったのです。国際組織の勧告が行われなかったことも驚くには値しません。現在、毛沢東主義者を鎮圧するという名目で、7万の準正規軍に加えて傭兵が先住民の土地に配備されていますが、実際は鉱物を収奪できるよう先住民を土地から追い出して誰もいない土地にしたいのです。

パンチャヤット制:長老会議制度。村落共同体から選ばれた数名の長老の決定に従うというもの。

ビンヤック博士は副代表[原文ママ]として「市民的自由を求める人民連合」にむけて報告書をかき、この武装集団が無辜の先住民を殺害したことに言及しました。これは最初の報告書になりました。このことで彼は政府の怒りを買い、長い間、標的にされました。そしてついに、誰かのカバンのなかに手紙をしのびこませビンヤックから渡されたと言うような、仕掛けられた偽の証拠によって逮捕されました。長い話になるので詳細には触れません。しかし医療的英雄でありインドの市民的自由の英雄で、人びとのために人びとに仕えて生きている高潔なビンヤックは、終身刑で投獄されました。これが彼の事件が重要である理由です。まるでほら、ナチ時代に、あの、牧師が書いた詩*を覚えていますか、「私は労働組合員ではなかったから、だから私は声をあげなかった。私は――」

*牧師が書いた詩:『彼らが最初共産主義者を攻撃したとき』というタイトルで、ナチ時代にマルティン・ニーメラーというルター派の牧師によって書かれた。ナチ党に迫害されるターゲットが共産主義者、社会主義者、労働組合員・・・と続く。ターゲットが自分に関係ないと見ぬふりをしていたら、いざ自分がターゲットになったときには声をあげてくれる人は誰もいなかった、という内容の詩。

グッドマン:「彼らが労働組合員を攻撃したとき 私は声をあげなかった」

シヴァ:そうそう。まさしくそれなんです。彼らはビンヤックでテストケースをつくり「母なる地球の権利に立ち上がるものは誰でも、人びとの資源の権利のために立ち上がるものはみな警戒しろ。ビンヤックでもこうなったのだから、お前だって同じだ」と言っているのです。これが、いま私たちは分水嶺にいるのだと信じる理由です。民主主義への道、母なる地球の権利を認識し、地球の限界のなかで生きる、資源の無駄の少ない良質な生き方に進むか、あるいはファシズムと軍国主義への道にすぐに進むことになるでしょう。そして自然の商品化は現代では武装した商品化にならざるを得ません。

グッドマン:ヴァンダナ・シヴァさん、「アース・デモクラシー」とは何ですか?

シヴァ:アース・デモクラシーというのは私にとってはまず、私たちは自然の一部なのだという基本的な事実を認識することです。人権と自然の権利は別々のものではありません、というのは私たちは地球が創造した生命という、この驚くべき神秘と驚異の一本の織り糸にすぎないからです。アース・デモクラシーはまた、4、5年に一度の選挙でではなく、人びとの日常生活に根ざし、普通の人びとによって用いられるものです。というのは、この世界のいたるところで、誰かを権力の座につけることができても、もうその人がみなの意思を代表しないのを見ているからです。

同様に、デモクラシーも企業支配のもとにあれば「人民の、人民による、人民のための」から「企業の、企業による、企業のための」ものに変わります。米国で、ウィスコンシンが突然、民主主義が破壊される現場、団体交渉権と公共サービスと社会の共有財産という基本的権利が破棄される現場になったのを目撃しました。すべてのものを私営化し、人びとが民主主義的な権利を行使するのを妨げようとする企業の圧力があるというだけの理由で、です。これは人間と地球の民主主義的権利と、企業が自らの権利を主張するために創りあげた企業の権利の対決であり、現在、企業は地球と人びとにあまりの犠牲を払わせています。企業は何にも報いることはありません。かつてはゼネラル・モータース社は、車を一台送り出すとき、雇用も提供していました。給料も払いましたからその車を買うこともできました。いまでは企業は社会に何も還元しません。自然から、社会から奪うだけです。この地球をゴミに、私たちの生命をゴミのようにしたいのです。人びとはうんざりしています。アラブ社会でのすべての蜂起は、人びとがどれほどうんざりしているかが示された一部にすぎません。

グッドマン:そしてモード・バーロウさん、BP社のオイル流出事故から一年ですね。あなたはカナダからいらっしゃいました。フラッキングに対して、BP社に対して、オイルサンドに対してデモがありました。私たちがどこに向かおうとしているのか、理解しておかなければならないことをお話ししていだだけますか? 今年、オバマ大統領は沖合いのボーリングを再開すると言いました。米国の人びとは、カナダから大量のエネルギーを得ていても、オイルサンドが何であるかほとんど知りません。

フラッキング:鉱井の周囲の地層に液体を流し込んで割れ目をつくること。

バーロウ:そうですね。現在の拡大率ではオイルサンドは、近い将来すぐに、世界で最もひどく温室効果ガスを発生させる場所になるでしょう。膨大な量の水が台無しになっています。森林を、ギリシャほどの大きさのタイガを壊しました。下流に住むファースト・ネーション共同体では子どもが胆管癌を4歳で発症しています。これは恐怖以外の何物でもありません。アメリカ人が知らなくてはならないのはこれが黒油の形で自分のコミュニティのそばまできていることです。鉱物タールは実際に、湾で精製されるために、オガララ帯水層上を通ってパイプラインで送られています。また現在五大湖の米国側まで運ぶ別のパイプもあり、そうしたパイプラインがさらに作られることになっています。これは腐食性で、毒です。もしこれが漏れたら水系を破壊するでしょう。私は漏れると断言します。

ファースト・ネーション:カナダに住む先住民で、イヌイットとメティ以外の人びと。カナダには630を超える民族がいる。

北アメリカ中にガスのフラッキングがあります。これは水への危険性を知っている人びとにとってはとてつもない強迫観念です。フラッキングは、膨大な量の化学物質を水に注ぎ込み、水平に蒸気噴射して岩層を粉砕しガスを取り出さないといけないのですから。セントローレンス川沿いの作業を見ていますので尚更です。ちょうどケベック州政府がセントローレンス川での探索権を認め作業を了承したところです。ちなみに米国側では許可されていません。カナダではよく「アメリカ側はもっと酷いよ」といいますが、今回は、もっと酷いのはカナダ側です。

自然の権利に結びつけて言えば、要するに私たちの政府が環境への配慮について騒ぎ、アースディには各国が強い声明をだすでしょうが、一方で政府の行動はすべて、それに背いているということです。世界中で強力に推進し続けている貿易協定をはじめ―いまや二国間協定は3000に近くになりました――、新しく大がかりな包括的経済貿易協定(CETA)には国家の協定だけでなくもっと下のレベルでの協定もあります。上下水道や道路、採掘の作業と自治体と学校と、なにもかも、対象が一段下のレベルになって、企業は、地元資金をどうやって、どんな価値観に基づいて使うかの条件を頭ごなしに押し付けることができるようになるし、フェアトレードによる禁止も取り払ってしまえるようになるとか、そのようなことです。それらすべてが大急ぎでやってきます。これは、いわゆるグリーン経済とよばれます。ご覧の通り、世界の列強によって、根本的には何も変わらず、無制限の成長を続け、無制限の自由貿易協定を継続し、アフリカの土地を収奪するという類の無規制の投資が続きますが、ただグリーンテクノロジーを使うので、そう呼ばれるのです。古い汚い技術のかわりにするんだというわけです。もちろん違います。オイルサンドは古い汚い技術であり、グリーン経済はその上に作られているんです。ですから地球に気配りをするというのは、ただの言葉にすぎません。

言おうとしているのは、種として存続しようとするのなら、そして地球が私たちの知っているような状態で存続しようとするのなら、私たちは考えをシフトし、私たちが自然の上位にあるのだという考えを止め、他の種が持たない、この地球が持たないような権利が私たちにあるという考えを捨てなければなりません。私たちは変わらなければならないのです。別の角度から見ることが出来たら世界はどのようなものでしょう。これまでにほとんどの環境保護活動家が得たものはせいぜい、あるシステムとかオイルサンドとかに投げ捨てる毒物の量についての交渉に過ぎません。つまり、どれだけ酷いかをただ知らせる一連の報告を受け取ることになっただけで、一つのパイプラインも停止させることはできていません。
オイルサンドをめぐり、ずっと戦ってきましたが、政府の増長も企業の増長も一つも止められていません。率直に言えば、エイミーさん、思考の転換なしに、どうすればいいのかわかりません。本当に、どれだけの有毒廃棄物を、空や海に捨てることが許されるのかということをただ話し合っていますが、どれほどの遺伝的被害を被ることになるのか――

グッドマン:思考の転換はどのように? 何が必要だと思われますか?

バーロウ:私たちが他の種と変わらない一つの種であり、私たちの権利を地球の権利と横並びに置かない限り存続できないと、思考を転換させることです。そうすれば私たちは地球から生まれたのだということがわかります。私たちの持つすべてのもの、着ているものすべて、食べているものすべて、触れるものすべてが地球から生まれたものです。思考を転換できなければ、世界の見方を変えられなければ、私たちがすべてに優るものだという考えを止めなければ、存続することはできません。私はいま進化の一歩だと考えます。実際にそのようなことが起こりえるとしたら、われわれ人間の発達の進化の一歩なのだと思います。

戦いの末に勝ち取ったという点で1948年の世界人権宣言にたとえることができます。「どういう意味があったのか? 」と人々はいまだにいうでしょう。人権はいまだに侵されているからです。普遍的な価値が守られていないからといって、普遍的な価値がなくていいということにはなりません。生存のために、地球と共に存続するために、人権の普遍的な価値、その基本的な人間の権利に地球の権利を加えなければなりません。

シヴァ:そしてエイミーさん、大切なのは実はこう考えている人のほうが多いということです。世界のほとんどの先住民族、ほとんどの工業化されていない文化、ほとんどの非西洋の文化は、自分たちは自然の一部であり地球は母であるという意識のなかで生きています。私たちはガンジス川にあるダムに反対しています。ガンジス川は聖母であるというのは現実的な話です。ガンジスは独自で存続しています。政府はガンジスの流れを止めることはできません。ガンジスには自由に流れる権利があるのです。これは今日のインドでとても重大な議論です。移住という点での環境への影響だけでなく、これが反ダムの基礎になっています。私たちが生命への特許に反対してやってきたことはすべて種の尊厳をもたらすものです。

私が思うに、本当に点をつないていけば、人びとが奴隷制を廃止したような、そんな瞬間に居るのだと気づくでしょう。人間を商取引し財産として所有することが正しいことと考える狂気の人々が当時はいました。それが間違っていると考える人は少数でした。しばらくの時間がかかりましたが、いまの私たちは他の人間を所有することが正しいとは誰も考えません。自然の所有、生物形態の所有、生命への特許、水の私有化、二酸化炭素排出量の商取引、排出条約、これらは皆、奴隷制と同じくらい正気の沙汰ではありません。地球を侵し、人びとの権利を無効にすることで大きな得をする、ごく少数のものが作り上げたこの拘束から抜け出さなければなりません。

グッドマン:最後の質問ですが、一分しかありません。合衆国の大統領選挙が2012年におこなわれますが、オバマ大統領について、カナダとインドから一言ずつ。モード・バーロウさん?

バーロウ:オバマ大統領の胸の奥底にあると私が思っているもののために強く立ち上がって欲しいですし、反対の路線を世の中に提供するのを止めて欲しいです。自分がしてきた妥協を説明したり売り込んだりするオバマ大統領なら要りません。私たちには是が非でもリーダーシップが必要です。そしてそれが自分にできる一番重要なことだとオバマ大統領に理解して欲しいのです。

グッドマン:ヴァンダナ・シヴァさん?

シヴァ:そうですね、オバマ大統領はよくガンジーに大きく感化されたと言います。そのガンジーは、地球はすべての者が必要とするものを十分持っているが、一握りの者の強欲を満たすに足るだけものはもっていないと言いました。オバマ大統領がインドを訪れましたが、ガンジーについて話す代わりに、また、多くを持たずとも皆が豊かに生きるガンジー主義のビジョンで米国からインドまで共通の世界を築く代わりに、企業のために 500億ドルの取引を求め、戦闘機のため、土地収奪のアフリカへの侵攻にインドの手を借りるために、そしていわゆる緑の革命のためにやってきました。私はオバマが、彼が感化された、彼に政権をもたらせた政策を実践することを希望します。

グッドマン:ヴァンダナ・シヴァ、モード・バーロウ、アース・ディにお越しくださってありがとうございました。

バーロウ:ありがとうございました。

シヴァ:ハッピー、アース・ディ!

原文サイト Democracy Now!
http://www.democracynow.org/2011/4/22/earth_day_special_vandana_shiva_and