◎アパルトヘイト推進マスコットになってしまったハローキティ!
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国連決議を踏みにじって継続するイスラエルによるパレス
チナ占領はこの6月で44年を迎えました。パレスチナを
訪れ、占領とパレスチナ人の人権侵害の実態を目の当たり
にした南アフリカのツツ大司教は、イスラエルによるアパ
ルトヘイトは、かつての南アフリカのそれをはるかに上回
るとさえ述べました。
パレスチナの占領を1日も早く終わらせるために、イスラ
エルに対するBDS(ボイコット、投資引き上げ、経済制
裁)が国際社会に呼びかけられています。しかし、今般、
ハローキティのキャラクターで知られる日本企業サンリオ
がイスラエル進出を決定しました。
これに対し、国内外の市民団体から撤回を求める声があが
っています。7月4日には、イスラエルの市民団体からも
サンリオに対し、計画の再考を求める要請状が出されまし
た。この要請状を、イスラエルに対するBDSキャンペー
ンに取り組む日本の市民団体「パレスチナの平和を考える
会」の役重善洋さんの解説とともにご紹介します。
[前書:岡 真理/TUP、翻訳:役重善洋
■イスラエルの市民団体による要請状
2011年7月4日
株式会社サンリオ代表取締役および役員の皆様
イスラエル市民からの要請
――無印良品を見習い、アパルトヘイト国家イスラエルにハローキティ・ストアを出店しないでください!
拝啓
私たちはイスラエルの市民グループです。私たちは、イスラエルの諸政策への抗議としてパレスチナ市民社会が行っている、ボイコット・資本引揚げ・経済制裁(BDS)の呼びかけを支持しています。私たちは、貴社がイスラエルのフランチャイズ企業リーダー・ブランズと提携してギヴアタイムにハローキティ・ストアを出店し、さらに他のイスラエルの町にも出店するという決定をされたことについて、大変残念なことだと考えています。貴社のこの決定は、イスラエルが何百もの国連決議を無視して、パレスチナ人に対する残虐な占領とアパルトヘイト政策を強化している、まさにそのただ中でなされています。
イスラエルに出店することがイスラエルのアパルトヘイト政策を利すると考える大きな理由のひとつは非常に単純なものです:イスラエルの軍事占領下で暮らしているパレスチナ人達は、貴社が出店を計画されている町の中に入ることさえも許されていないのです!
西岸地区における移動制限は、ギヴアタイム(あるいはテルアヴィヴ)における「普通のビジネス」とパレスチナ被占領地におけるアパルトヘイトとのあいだに見られる際立った差異を示す一例に過ぎません。イスラエルによるパレスチナ人に対する人権侵害は、そうした不正を遙かに超えたものです。
パレスチナの村々に対して毎晩のように行われている暴力的な侵攻、11歳の子供さえ対象とする系統的な逮捕・拘束、非暴力のデモ参加者の殺害――これらは、バラバラに行われている残虐行為ではありません。これらは、ひとつの抑圧システムとして機能しており、いかなる批判や改善を求める国際機関の勧告によっても実質的に変わることはなかったのです。
イスラエルによる人権侵害は、国連、あるいは、アムネスティ・インターナショナルやオクスファムなど、高く評価されている人権団体によって立証されており、国際的な司法機関によって違法であると認定されています。イスラエルに対する確固とした具体的圧力の必要は、ガザ地区における「封鎖の即時無条件かつ完全な解除」をもとめた、21の人権団体による最近のレポートのなかでも強調されていることです。ガザにおいてイスラエルは生活物資の搬入に対して「熟慮された制限」と呼ばれる政策を行っています。そこでは、住民たちを栄養失調寸前の状態に留め置くために、搬入される食糧の量が数学的手法によって計算され、必要とされる物資の量に対し、平均して3分の1以下しか許可されていないのです。
イスラエルは、国際社会によってもはや容認されてはならない人種主義や民族浄化を実行し、また、合法化しています。かつて南アフリカに対して必要とされたときと同様、イスラエルの諸政策に対して国際的な圧力をかけることが強く必要とされています。昨年、日本企業の株式会社良品計画が、私たちの要請、そして世界中からの要請を聞き入れ、イスラエルに出店しないことを決めたとき、うれしく思いました。
かつて、南アフリカが国連の経済制裁下にあったとき、日本企業は同国の企業と広範なビジネスを行い、その誤った行為は厳しい批判にさらされました。私たちは、貴社がアパルトヘイト国家イスラエルにチェーン店をもつ最初の日本企業になることによって、不名誉を被ることにならないよう心から願っています。
そして何よりも、人間としての基本的権利と尊厳を得るために闘っているパレスチナ人達の声をどうか聞いてください。彼等は、人種差別・占領・アパルトヘイトについてイスラエルが何ら処罰の対象とされないという歴史を終わらせることを要求しているのです。
私たちは、貴社がイスラエルにハローキティ・ストアを出店する計画を再考されることを強く要請します!
この件について、貴社からの返信をお待ちしています。
敬具
イリス・バル、ロニー・バルカン、コニー・ハクバース、イリス・ヘフェツ、シル・ヘヴェル、ヤエル・カフン、リアド・カントロウィッチ、アッサフ・キンツェル、 レラ・マザリ、エド・メディクス、ドロシー・ナオル博士オフェル・ネイマン、ジョナサン・ポラック、レネン・ラズヨナタン・シャピラ、ヨナタン・スタンツァック、エイナト・ワイツマン
*英語原文は
http://boycottil.seesaa.net/article/213168128.html
【解説】
アパルトヘイト推進マスコットになってしまったハローキティ!?
役重善洋(パレスチナの平和を考える会)
■世界に広がるBDSキャンペーン
BDSキャンペーンというのは、イスラエルに対するボイコット・資本引き揚げ・経済制裁をもとめ、パレスチナの市民グループ171団体が超党派で世界に向けて呼びかけている運動のことである。この運動は、アパルトヘイト時代の南アフリカに対して行われた国際的なボイコット運動や経済制裁を指標としており、その目的は、イスラエルのパレスチナ人に対するアパルトヘイト政策を改めさせること――占領の終結、イスラエル国内のパレスチナ市民への差別解消、パレスチナ難民の帰還権の実現――にある。(1)
2005年の呼びかけ以降、ノルウェー政府の年金基金がイスラエルの兵器企業からの投資引き揚げを決定したり、フランスの多国籍企業が被占領東エルサレムの路面電車プロジェクトから撤退するなど、欧米諸国を中心としてキャンペーンの影響はじわじわと広がり続けている。同時に、文化・学術ボイコットも取り組まれており、カルロス・サンタナやエルヴィス・コステロなど、多くの大物アーティストがイスラエル公演を中止し
ている。そのインパクトは、かつての南アフリカに対して行われたボイコットの規模にはまだ及ばないものの、南ア白人政権と軍事的政治的同盟関係にあったイスラエル政府に大きなプレッシャーを与えていることは間違いない。(2)
日本におけるBDSキャンペーンとしては、昨年、様々な団体・個人によって取り組まれた「ストップ無印良品キャンペーン」が国際的にも注目された。ネット上での持続的な情報発信や出店中止要請ハガキ送付キャンペーン、大阪・東京、さらにはソウルで取り組まれた店舗前での波状的な情宣行動などを受け、良品計画は、4月に発表していたイスラエル出店を同年12月には中止せざるを得なくなったのである。(3)
■サンリオが市民の声を無視してイスラエル出店を強行!?
しかし、一息つく間もなく、今度はサンリオが「ハローキティ・ストア」をイスラエルに出店するという。イスラエルの新聞報道によって明らかになったこの出店計画に対して、関西からは、パレスチナの平和を考える会、東京では、ミーダーンをはじめとした様々な市民団体、さらには、イギリスのパレスチナ連帯キャンペーンやイスラエルの「ボイコット!」グループなどからサンリオ宛に公開質問書が送られている。いずれも、BDSキャンペーンの理念にもとづき、イスラエル出店の問題性を厳しく問う内容となっている。(4)
いまのところ、サンリオは、パレスチナの平和を考える会宛にのみ回答書を送付しているが、その内容は、「卸売先がやっていることだから当社は回答する立場にない」という無責任なもので、質問書の具体的内容には、ほとんど一切答えていない。海外事業の展開に力を入れるグローバル企業である割に、余りに市民社会の声を軽視しているという印象を否めない。
とりわけ、イスラエル国内でBDSキャンペーンに取り組む人々から、サンリオのイスラエル出店への異議が唱えられていることは、サンリオ経営陣はもちろんのこと、日本の市民運動の側においても、しっかり受け止める必要がある。自らの所属する国家の植民地主義の問題に取り組む彼らの訴えは、日本におけるパレスチナ連帯運動を、日本自身の脱帝国・脱植民地主義の課題の一環として位置付ける必要性を浮き彫りにしているように思える。その意味で、かつて経済制裁下にあった南アフリカに対し、多くの日本企業が、アパルトヘイトと闘う黒人の声を無視して貿易関係を継続していた歴史に、彼らの公開書簡が言及していることは重要である。
現在、サンリオが実際にイスラエル出店を強行したのかどうか、まだはっきりとした情報はつかめていないが、計画を中止したという兆候は一切見られないし、もともと6月下旬の予定としていたので、すでに出店している可能性もある。だとすれば、イスラエルの「ボイコット!」グループが警告した通り、サンリオは、「アパルトヘイト国家イスラエルにチェーン店をもつ最初の日本企業」、すなわち、明白なアパルトヘイト推進企業に堕してしまったのだと言って差支えないだろう。
■深まる占領と多国籍企業の関係
ちなみに、サンリオがイスラエルでライセンス契約をしているLDI社という会社は、エルアル航空と同系列の資本の下にある企業である。エルアル航空は、兵器の輸出入等でイスラエル軍と深く連携しており、現CEOは、2006年のレバノン侵略戦争の際の空軍司令官である。(5)
現在イスラエルは、軍需産業を含めた多くの国有企業の民営化を進めつつあり、西岸の検問所などでも、すでに民間警備会社に雇われた「兵士」が多く配置されるようになっているが、エルアル航空もそうした流れのなかにあるといえる。OECDへの加盟など、新自由主義の流れに適応することに必死なイスラエルにおいて、民間企業とパレスチナ占領は、ますます切り離しようのない相互依存関係をもちつつある。さらに、そうしたイスラエル企業がグローバル経済のなかで生き残るために、多国籍企業化し、また、海外資本を積極的に導入していくことで、パレスチナ占領を支える構造そのものが、多国籍企業化しつつあるといえる。
現在、こうした流れを主導し、「経済的和平」なる言葉を操っているネタニヤフ首相の最初の首相任期だった1990年代後半、コカ・コーラやスターバックス、ネスレなどの名だたる多国籍企業が、イスラエル経済への貢献を称える賞を授与されていることは、多国籍企業と占領とのつながりの深化を示す象徴的な事実だといえる。(6)
すでに「新植民地主義」を支えるグローバル侵略企業として多方面からボイコット運動の対象とされてきたこれらの多国籍企業は、2000年に始まる第二次インティファーダに際し、イスラエルとの深いつながりを理由にアラブ諸国を中心にあらためてボイコットの対象とされることとなり、その後のBDSキャンペーンの呼び水となった。「ハローキティ・ストア」のイスラエル出店によって、サンリオは、こうしたイスラエル支援企業リストの末席に晴れて名を連ねることになるのだと言えよう。2008年、海外ライセンス事業を拡大するために幹部に抜擢され、サンリオ米国法人のCOO (最高業務執行責任者)と欧州法人の MD (最高業務執行責任者) を担い、今回のイスラエル出店に関しても主導的な役割を果たしていると考えられる鳩山玲人氏が、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得した「グローバル・エリート」であることは、アメリカ主導のグローバル・スタンダードがいかにイスラエルの占領と親和性をもっているかを示しているようにも思われる。
現在、私達は、「バイバイ・キティ・キャンペーン」の開始に向けて準備を進めている。当面の展開については、パレスチナの平和を考える会のウェブサイトをぜひチェックして頂きたい。(7)
註
(1) イスラエルBDSの呼びかけ文(パレスチナ情報センター)
http://palestine-heiwa.org/doc/20050709_badil_rc_al-majdal.html
(2) 世界的な高まりを見せるイスラエル・ボイコットの動き
http://palestine-heiwa.org/news/201006091554.htm
(3) STOP無印情報センター
http://palestine-heiwa.org/muji/index.html
First Victory of BDS Campaign against Israel in Japan
http://www.alternativenews.org/english/index.php/topics/economy-of-the-occupation/3090-first-victory-of-bds-campaign-against-israel-in-japan
(4) サンリオ・ショップのイスラエル出店についての公開書簡
・パレスチナの平和を考える会(大阪)
http://palestine-forum.org/doc/2011/hello-kitty.html
・ミーダーン〈パレスチナ・対話のための広場〉他3団体(東京)
http://midan.exblog.jp/16582977/
・Palestine Solidarity Campaign(イギリス):
http://d.hatena.ne.jp/byebye-hellokitty/20110707/1310015098
・Boycott!グループ(イスラエル):
http://boycottisrael.info/content/sanrio-please-follow-muji-and-refrain-opening-hello-kitty-stores-apartheid-israel
(5) Warrant for: Eliezer Shkedy
http://wanted.org.il/eliezer_shkedy_en.htm
(6) イスラエル支援企業リスト(パレスチナ情報センター)
http://palestine-heiwa.org/choice/list.html
(7) パレスチナの平和を考える会
http://palestine-forum.org/