だれが犯人? 無法地帯になった米国空港の身体検査
TUPのTwitterをフォローしてくださっているみなさんに
<この「事件」を報じた日本のメディアの記事>
朝日新聞(asahi.com)http://www.asahi.com/international/update/0720/TKY201107200457.html
東京新聞(Tokyo web)http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2011072102000191.html
この号もくじ
米国在住のTUPメンバーによるエッセイ
支援フェイスブックを立ち上げた宮前さんの友人のメッセージ
宮前さんの代理人のプレスリリース
1)米国在住のTUPメンバーによるエッセイ
7月14日、TUPの長年のメンバーである宮前ゆかりさんが、アリゾナ州空港でセキュリティゲート通過の際、米国運輸保安局(TSA)の女性職員に対する「性的暴行」の嫌疑を受けて逮捕されました。宮前さんはその後釈放され、郡検察は(1)性的動機によるものではない、(2)TSA職員は警察官ではないため、警察官への暴行とは見なされないことから、重罪起訴には値しないと結論しました。
この事件は米国内で注目を集め、当初は嫌疑内容を鵜呑みにした「日本女性がTSA女性職員に性的暴行」といった面白半分の報道も多く見られました。一方、運輸保安局職員の態度の酷さに辟易している米国市民や外国人旅行者も多く、宮前さんへの支持はフェイスブックなどを通して広がり、フェイスブックには現在も世界各国から投稿が絶えません。
TSAによる行き過ぎ検査は、子どもや身体の不自由な年配者にまで及びます。TUPメンバーのキム・クンミさんの場合、7歳の娘さんがローラー取付けのできる子ども用運動靴のローラーを外して履いていたところ、取付け器具が金属センサーに反応しました。TSA職員にさらうように突然連れていかれた子どもが日本語で「おかあさん!」と泣き叫ぶのに、職員は「Sit down! Put your legs up! (座って足を上げろ!)」と、英語の解らない子どもに向かって怒鳴りつけるばかりだったといいます。その間、クンミさんは別の職員に羽交い締めにされ、娘さんに近づくこともできませんでした。
TSA関連では先月も「行き過ぎ検査」の一例が全米に報道され、大きな反響を呼びました。重病を患った車椅子使用の95歳 の女性がセキュリティ検査を通過時に別室へ連れて行かれ、身体を触るボディチェックを受けさせられた事件です。所定の方法以外での液体の持ち入りを禁じる規則に基づき、この女性は大人用おむつを外すことを強いられました。当局は「検査の一環であり問題はない」としていますが、「検査のやり方そのものに問題 がある」、「常識に基づく判断に欠けている」と市民の声が上がっています。
今回の件で宮前さんが拒んだX線によるセキュリティ検査に対しては、(1)現行のX線検査では衣服を通して裸体の映像が見られる、というプライバシーの問題と、(2)X線検査による被曝量は、当局の発表よりも実際は多いという科学的データがある、という健康上の問題があり、これらに対する懸念の声が以前から寄せられていました。
このうち(1)プライバシー問題については、ワシントンDCの民間団体である電子プライバシー情報センター(EPIC)が昨年、X線によるTSAの身体検査は「不合理な捜索および押収」を禁じる米国憲法修正第4条に違反するとして提訴しており、宮前さんが釈放された15日に控訴審の判決が出たところでした。判決ではTSAの検査方法は「市民の安全を守るためには乗客の検査を行う必要」があり「違法ではない」ものの、TSAは「施行前に民間意見の聴聞を行うべきであった」として、TSAに民間意見の聴聞を改めて命じています。
また(2)健康上の問題については、2010年にボストン空港の職員組合が「ボストン空港におけるX線検査機担当TSA職員の発ガン率は他の職員より高い」と警鐘を鳴らしています。これを受けて上記EPICが情報公開法に基づいて取得し今年6月27日に発表した情報によれば、TSAのX線検査機により職員が被る放射線量の検査は十分ではないこと、放射線被曝量についてTSAはこれまで正確な情報を出していないことが指摘されています。
子どもや年配者、補助器使用者への配慮に欠ける検査方法や、プライバシーの問題、健康上の問題など、米国の空港警備の方法について一般市民の疑問が高まっていた波の頂点で起こったのが宮前さんの逮捕事件であり、だからこそ宮前さんを支持する市民の声が高まったとも思われます。
宮前さんの嫌疑と本件の行方は、フェニックス市の検察官が今後、軽犯罪起訴をするかどうかにかかっています。宮前さんの無実が一日も早く証明されることを願うと共に、米国運輸保安局の行き過ぎた検査が改められるよう、市民活動を通じて見守りたいと思います。(渡辺)
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2)支援フェイスブックを立ち上げた宮前さんの友人のメッセージ
http://causewayllc.com/yukaridefense.html
http://www.facebook.com/YukariDefense?ref=ts&sk=info
米運輸保安局係員への性的暴行という不当な容疑をかけられた宮前ゆかりの支援をお願いします。
宮前ゆかりは、2011年7月15日アリゾナ州フェニックスのスカイハーバー国際空港で保安検査を受ける際、逮捕されました。
報道によると、逮捕報告書には宮前ゆかりが運輸保安局係員バーバラ・オトゥールの「同意なしに、左胸を服の上から……両手でつかんでひねった」と書かれているとのことです。
ゆかりは容疑を否定しています。「警察による記述とフォックスニュースによる報道は、7月14日アリゾナ州マリコパ郡フェニックス空港でわたしに何が起きたかを正確に述べていません」(http://twitter.com/#!/MiyamaeYukari )
法廷弁護士ジャド・ゴールデン(http://juddgoldenlaw.com/)が宮前ゆかりの弁護を引き受けました。
わたしたち二人はゆかりの友人です。友の汚名を濯ぐのを支援するため、このページを開設しています。ゆかりの多くの友人・支援者から、法的費用を寄付する方法を求められました。このページをそのために使っていただけます。ゆかりの潔白のためにどなたでもどのような額でも寄付いただけるよう、ペイパルの寄付ボタンを設け(ページの左側にあります)、保護されたオンラインのリンクを設定しています。非常に重大な容疑ですが、適切な法的弁護が行われれば、嫌疑は完全に晴らされると思います。
ゆかりの人となりの一端なりとも知っていただければと思います。わたしたちは長年ゆかりと親しく、家族のようですので、その人柄をぜひお伝えしなければと思います。ゆかりはプロの日英・英日翻訳家として精力的に仕事をするキャリアウーマンです。現在、アリゾナ州フェニックスで仕事があり、ここ数週間、週に二回デンバーを往復していました。仕事の合間には地元と世界の時事問題を詳しく追いかけ、独立系コミュニティ・ラジオ局でボランティアで音楽・ニュース番組を手がけ、人権擁護に献身し、とても素敵な人としてよく知られています。自分の友人であることを誇りにできる人です。今回の容疑は大きな間違いであり、彼女の人柄からはまったく考えられないことであり、事実が正されれば 不起訴になるとわたしたちは思っています。そうなるよう役に立ちたいと願い、みなさんもわたしたちと同じ思いをもってくださることと思います。
よろしくお願いします。
アン・コルコード、ダビデ・アンドリア
注記:
報道ではゆかりの苗字が誤って「Mihamae」とされています。
別のフェイスブック・ページ:
https://www.facebook.com/groups/191624430895558
法廷に出頭したときの映像:
http://www.superiorcourt.maricopa.gov/MediaRelationsDepartment/MediaRoom/HighProfileVideo.asp?video=225
更新:7月18日、マリコパ郡は重罪起訴を行わないことを決定しました。今後、軽犯罪起訴を行うかどうかの決定を市が下すことになります。
(以上翻訳:荒井雅子)
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*現在、他にも複数のフェイスブックが立ち上がっています。もっともアクティブなのがAcquit Yukari Mihamae (名字の綴りが間違っています)でいままでに4860人が登録し、現在も活発なやりとりが続いています。
http://www.facebook.com/pages/Acquit-Yukari-Mihamae/193771357344518?sk=wall
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3)宮前さんの代理人のプレスリリース
2011年7月19日
緊急のお知らせ
連絡先
ジャッド・ゴールデン(宮前ゆかり代理人弁護士)
303-442-6355 juddgolden@hotmail.com
コロラド州在住の宮前ゆかりに対する重罪容疑、取り下げとなる
運輸保安局性的暴行嫌疑
7月14日フェニックス空港で運輸保安局係官に性的暴行を加えたとの容疑を受けた宮前ゆかりさんに対し、マリコパ郡検察局は19日、重犯罪には問わないことを決定し、同日これを確認しました。
事件が終わったわけではありません。本件はフェニックス市検察官に移管され、宮前さんが軽犯罪を犯したとして検挙される可能性は消えていません。刑事または民事の別の罪状で提訴される可能性もあります。
宮前さんは、コロラド州ロングモント在住の翻訳家・作家・ラジオプロデューサーで、逮捕歴、犯罪歴はなく、本事件での不正行為を一切否定しています。14 日の午後、フェニックスからデンバー行きの飛行機に搭乗するところで、セキュリティを通った際に、運輸保安局係官の行動に威圧、脅威、そして身の危険を感じたということです。
出張で飛行機に乗ることの多い宮前さんは、全身スキャナーによる過大な放射線被曝を恐れて、運輸保安局係官に対して金属探知機でのセキュリティチェックを希望しました。
この希望は拒絶され、宮前さんはすぐに運輸保安局係官に取り囲まれました。その中のひとり、背の高い女性係官が宮前さんに近づきました。宮前さんは身長わずか150センチ程度です。
宮前さんはパニックになり、この係官が個人空間を侵害して極端に近づいてきた瞬間、強い嫌悪感を感じました。脅威と身の危険を感じたのは、以前にセキュリティで受けたボディーチェックがトラウマになった体験があるためで、その時のようにまた暴力的かつ無配慮な触られ方をするのではないかという恐れから本能的に女性係官を押しのけたものです。
今回の事件とそれに続く逮捕、勾留、そして性犯罪者の濡れ衣を着せられたことに対し、宮前さんは現在も深く心の傷を負っています。プライバシーは大事にしていますが、いずれ機会をみつけて国民の皆さんに今回実際に何が起こったのかをすべてお話ししたいと考えています。
宮前さんはいくつかのフェイスブックに何千人もの方々から寄せられたご支援と激励に感謝しています。こうした方々の多くも運輸保安局のセキュリティチェックで不快な思いをし、脅威を感じたことがあるといいます。
裁判費用その他のご寄付をいただける場合は、コロラドの友人たちが立ち上げた Yukari Miyamae Legal Defense Fund というフェイスブックをご利用くだ さい。どうぞよろしくお願いします。
(翻訳:川井孝子)
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TUPのTwitterをフォローされているかたには紹介済みですが、以下の二つのTUP速報を読まれると宮前さんがどんな人か、その一端なりともご理解いただけると思います。いずれも翻訳記事ではなくオリジナル記事です。
速報754号「無名の市民たちが生み出す非暴力不服従運動」は2008年の作で、彼女の不服従抵抗運動のルーツでもあるロッキーフラット反核運動の30年後の同窓会についてのエッセイ。ダニエル・エルスバーグなど当時の運動仲間との再会が描かれています。原発震災をきっかけに市民運動へ初めて参加する人にぜひ読んでほしい勇気が出る一作。
https://www.tup-bulletin.org/modules/contents/index.php?content_id=776
速報881号「ウィキリークス宣言:情報は民主主義の通貨だ」は彼女の最近の仕事であるウィキリークスに関する論考。オリジナルは雑誌『世界』に掲載。
https://www.tup-bulletin.org/modules/contents/index.php?content_id=913
その他の記事はTUPのウェブサイトで検索してみてください。
出版物の最新作は先月出版になったばかりの『ウィキリークスの時代』(グレッグ・ミッチェル著 宮前ゆかり訳 岩波書店刊)。また、TUP共同翻訳の『冬の兵士 イラク・アフガン帰還米兵が語る戦場の真実』(反戦イラク帰還兵の会、アーロン・グランツ著 TUP訳)では、翻訳チームのリーダーとしてとりまとめを行いました。
『ウィキリークスの時代』 http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/0222180/top.html
『冬の兵士』 http://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?isbn=ISBN978-4-00-024651-4
(以上まとめ:藤澤みどり)