TUP BULLETIN

速報928号 マラライ・ジョヤと過ごした一日 《シリーズ「マラライ・ジョヤとアフガニスタンの今」第2回》

投稿日 2011年10月13日

 ◎ シリーズ:マラライ・ジョヤとアフガニスタンの今 第2回

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シリーズ前書き(岡 真理/TUP)はTUP速報第926号にあります。

 https://www.tup-bulletin.org/modules/contents/index.php?content_id=958



今回の速報では、2011年春の米国でのスピーキング・ツアーでマラライをインタビューしたジャーナリストによる記事の翻訳をお届けします。



第2回翻訳:向井真澄(TUP)

 シリーズ「マラライ・ジョヤとアフガニスタンの今」

第2回 マラライ・ジョヤと過ごした一日
「昨日、私はメリーランド州の南部で、同州セントメリーズ大学での講演を控えたマラライとひとときを共にした」

ロバート・ドレフュス
The Nation
2011年4月14日

アラブ世界やイランを席巻する反乱とアフガニスタンにおけるはるかにやっかいな状況をくっきりと分ける境界線など存在しない。アフガニスタンの革命家や民主主義をめざす活動家は、30年続いた戦争と米国・NATOによる占領、そして邪まな軍閥や狡猾な政治屋による支配に疲弊している上に、新たな課題に直面している。エジプトとは異なり、たとえばフェイスブックやツイッター、その他のソーシャル・ネットワーキング・サイトへのアクセスはなく、電気や電子機器が不在の地域も多い。

しかし、そんな状況にあっても、マラライ・ジョヤの行動にブレーキがかかることはない。

昨日、私はメリーランド州の南部で、同州セントメリーズ大学での講演を控えたマラライとひとときを共にした。これは公立の大学で、小さなセントメリーの町にある。マラライは注目に値する若い女性で、1990年代にパキスタンで難民として、またある時はRAWA(アフガニスタン女性革命協会)が運営する学校で教育を受けた活動家である。ターリバーン時代にはアフガニスタン国内の非合法学校で教師を務め、故郷のファラフ州では無料診療所と孤児院を設立した。2003年、25歳のときに、アフガニスタン国民大会議で立ち上がって、ターリバーンのみならず、米国を後ろ盾にして国政を握ろうと勃興した数多の軍閥を糾弾したことは世界的なニュースとなった。2005年に国会議員として選出された。当時のアフガニスタンの国会は現在同様、超保守派、軍閥、腐敗した政治屋が牛耳っていた。その2年後にマラライは、アフガニスタンの議会と政府を鋭く批判して議会から追放された。それ以来、マラライは半地下生活を送り、一連の暗殺未遂を生き延びてきた。2010年に、タイム誌はマラライを世界で最も影響力のある100人の女性の一人に選んだ。

ジョヤは、米軍とNATO軍にただちに撤退してもらいたいと言う。「撤退すべきです。将来の内戦が現在の内戦より危険性を増すことはありません」と述べている。彼女はターリバーンに激しく反対しているが、2001年に米国が支援した、昔からの北部同盟とその同盟者を動かすギャングやカルザイ大統領にも同じぐらい強く反対している。

彼女は今米国ツアー中で、その目的の一つは、新著『軍閥に囲まれた女』のプロモーションである。その旅には邪魔が入った。米国国務省が、アフガニスタンでは身を隠していて職に就いていないと彼女が述べたこともあって、当初ビザの発行を拒んだからだ。この決定は世界的な抗議が起こるまで撤回されなかった。大使館の官吏が「あなたのことはよく存じています」と言ったことを彼女は思い出す。

マラライが組織化に取り組むアフガニスタンの状況は、困難という形容では足りない。メディアはほぼ完全に政府とその同盟者の管理下にある。インターネットは、彼女の言葉によれば「アクセスできるのはほんの一握り。フェイスブックやツイッターにアクセスしているアフガニスタン人は、人口のわずか2%だけで、主として医者など」だ。カルザイ政権が絶望的に腐敗していてターリバーンに傾いているばかりか、議会にも希望はもてない。彼女は「民主主義を擁護する立場の議員は片手の指で数えることができる」と言う。アフガニスタンにも進歩的な―彼女の言葉では「原理主義に反対し」「民主主義を擁護する」―政党やNGOが少しはあるが、その組織化は進んでおらず、多くは地下に潜伏しているか、政治的力が弱い。彼女がそのような団体として挙げるのは、RAWA、アフガニスタン連帯党、アフガニスタン女性の能力向上団体、その他数団体である。

マラライ・ジョヤは、自分が直面しているほとんど絶望的な困難にもかかわらず、次のように述べている。「選択肢は二つです。沈黙しているか、闘うか、です。でも私は生きています。生きていられるとは思っていませんでした」それでも、彼女はアフガニスタン国内では旅行はできない。いろいろな州を訪問することはできない。カーブルでは、身の安全のために、滞在する家を常に変えている。
セントメリーズ大学での講演では、約100人の学生が出席し魅了されたが、その中でマラライは、アフガニスタン戦争についての見解を述べた。彼女は、伸び上がってやっとマイクに届くほど小柄で、長い黒髪をもち、決意を秘めたその眼は輝いている。黒っぽいパンツスーツを着て、明るいピンクのスカーフを首に巻き、当然ながら頭を布で覆ってはいない。彼女の声は抑えた怒りを帯びていて、叫びに近いほど大きくなることがある。聴衆は、こざっぱりした顔をした若者だったが、たじろいでいるように思われた。だが、講演が終わるともっともな質問が続いて、聴衆が彼女のメッセージを受け取ったことを示していた。

「バラク・オバマの対外政策、すなわち増派がわが国にもたらしたものは、虐殺の増加です」と彼女は述べる。2001年以降、米国はアフガニスタンを「一つの災難からもっとひどい災難へと」追いやった。女性がターリバーンや社会制度について保守的な立場をとるその他のアフガニスタンのイスラーム主義者の犠牲になることを防ぐため、米国はアフガニスタンに駐留し続ける必要があると主張する人々に対しては、マラライは言う。「戦争がアフガニスタンの女性を助けることは決してありません」

マラライ・ジョヤは、米国とカルザイが、戦争終結のためにターリバーンと政治的取引をする必要性には耳を貸さない。ターリバーンは、米国とサウジアラビアやパキスタンにいる米国の同盟者が生み出し、支援したもので、自らの利益になるのであれば、結局米国はターリバーン主導あるいはその影響下にある政権をもう一度受け入れる可能性がある、と彼女は言う。その上、ターリバーンとその敵、つまり、大半がタジク人やウズベク人で構成されている北部同盟とは、ほとんど、あるいはまったく違いはなく、北部同盟の指導者には1990年代前半の最も血なまぐさい内戦の責任があるのだと言う。また彼女はターリバーンや軍閥を装う政治的イスラームには断固として反対している。「彼らはイスラームを政治に持ち込んで、人々を支配するために利用します」

彼女は長い闘いになることを覚悟している。自分の仲間は、ターリバーンを、また政府内のターリバーンの敵をも等しく憎んでいるアフガニスタンの無辜の民だとマラライは言う。「レイプの犠牲となった女、十分な食べ物がない人々、米国とNATOに爆撃されている人々。彼らこそが私のヒーローです」と述べている。

The Nationの寄稿編集者であるロバート・ドレフュスは、バージニア州アレクサンドリアの調査報道ジャーナリストで、政治と国家安全保障を専門としている。”Devil’s Game: How the United States Helped Unleash Fundamentalist Islam”(『悪魔のゲーム:米国はいかにして原理主義的イスラームを解き放ったか』)の著者であり、Rolling Stone、 The American Prospect、Mother Jonesに頻繁に寄稿している。

原文:
http://www.thenation.com/blog/159955/day-malalai-joya