TUP BULLETIN

速報934号 アフガン女性を利用するタイム誌 《シリーズ「マラライ・ジョヤとアフガニスタンの今」第6回 》

投稿日 2011年11月29日

◎シリーズ「マラライ・ジョヤとアフガニスタンの今」第6回

アフガン女性を利用するタイム誌

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シリーズ前書き(岡 真理/TUP)はTUP速報第926号にあります。



https://www.tup-bulletin.org/modules/contents/index.php?content_id=958



2010年8月10日付米タイム誌の表紙に掲載されたアフガン女性の写真をご記憶の方も多いと思います。婚家の虐待に耐えかね家出し、ターリバーンとされる夫らによって無残に鼻を削ぎ落された18歳のビビ・アーイシャの写真は、世界に衝撃を与えました。「我々[米軍]が撤退したら、[これが]アフガニスタンで起こること」という見出しのつけられたこの写真は、2011年の世界報道写真大賞を受賞するとともに、論争の的になりました。



以下、GRIID(Grand Rapid Institute for Information Demorcracy)の

ジェフ・スミスによるタイム誌の同記事に対する批判を紹介します。



凡例[  ]:訳注



[前書き・翻訳・解説] 岡 真理(TUP)

アフガン女性を利用するタイム誌
2010年7月31日
ジェフ・スミス(GRIID http://griid.org/

ご記憶だろうか。2001年、合衆国がアフガニスタンを侵略/占領した当初、ブッシュ政権が侵攻する理由の一つとして掲げていたのが、アフガン女性の解放だった。ローラ・ブッシュ[大統領夫人(当時)]自身、こうした立場に立って、アフガニスタンの女性の窮状を憂慮しているという政権の表看板を買って出ていた。

メディア評論家や政界の一部には依然として、合衆国の占領ひいてはオバマ政権による米軍の増派まで、この[アフガン女性の解放という]主張を利用して、正当化している者たちがいる。最近の例としては、タイム誌の最新号[1]が、この種の道徳君子を装った正当化をおこなっている。

[1] ‘Afghan Women and the Return of Taliban’, “Time”
http://www.time.com/time/magazine/article/0%2C9171%2C2007407%2C00.html

タイム誌は、ターリバーンによって鼻を削ぎ落された18歳のアフガン女性の写真を[そうした正当化に]利用している。表紙を飾ったこの写真に関する記事の見出しは、「われわれ[米軍]がアフガニスタンを撤退したら、[アフガニスタンで]何が起こるのか?」というものだ[2]。記事は、間もなく9年になる占領[の継続か終結か]を判断する根拠として女性の福祉を引き合いに出しており、ホワイトハウスの施政方針演説を彷彿とさせる。

[2]原文ではWhat happens if we leave Afghanistan? となっているが、タイム誌の見出しでは疑問符はついておらず「われわれが撤退したら、[アフガニスタンで]起こること」となっている。この見出しが、疑問を呈しているのではなく、米軍が撤退したらターリバーンが復活して、こういうことがアフガニスタンで起こるのだ、と断定的に述べていることも、同記事をめぐる論争の一部となっている。

しかしながら、タイム誌の記事がとりこぼしている論点がいくつかある。第一に、重要なのはターリバーンが、ムジャーヒディーン[イスラーム聖戦士]として知られる極右のムスリム男性たちのグループから誕生したということだ。これらムジャーヒディーンは1980年代、ソ連をアフガニスタンから駆逐するという目的のために、合衆国の財政援助を受けていたが[3]、彼らはアフガニスタンの人々、とりわけ女性に対し自分たちのイデオロギーを強制することを欲する者たちでもあった。

[3]原文ではこの部分で、William Blum 著 “Killing Hopes:US Military and CIA Interventions Since World War II” の ‘53.Afghanistan 1979-1992 America’s Jihad’にリンクが貼られている。
http://killinghope.org/bblum6/afghan.htm
その冒頭で紹介されているのは、イスラーム党党首であるグルブッディーン・ヘクマティヤルに対する合衆国政府の財政援助についてである。ヘクマティヤルの名が最初にCIAや国務省関係者などの知るところとなったのは、彼の支持者が、ヴェールの着用を拒否した女性に酸を投げつけたためであった。合衆国政府は女性に対するヘクマティヤルの抑圧的イデオロギーを承知していたが、その反ソ連活動を支援するために、巨額の財政援助を行ったのだった。マラライ・ジョヤはその講演会で、カルザイ政権が現在、ターリバーン指導者のムッラー・オマル、そしてこのヘクマティヤルをも政権に復帰させようとしていることを厳しく非難している。

[90年代前半に]ムジャーヒディーンが政権を獲得する以前のアフガニスタンで、女性たちがかなりの程度、男性との平等を享受していたことは、アフガン人ジャーナリスト、ソナリ・コルハトカルの著書『流血のアフガニスタン』(Sonali Kolhatkar, “Bleeding Afghanistan”)で詳しく紹介されているとおりである。コルハトカルは、合衆国による占領の終結を求める「アフガン女性ミッション」[4]という団体の共同代表でもある。

[4]http://www.afghanwomensmission.org/

第二に、アフガン女性は30年もの長きにわたって、戦争、暴力そして占領に苦しめられてきたということがある。タイム誌の記事では、アフガン女性の苦難は主としてターリバーンによってもたらされたものであるかのように語られているが、実際には、アフガニスタンの女性たちは、ムジャーヒディーンにも、さまざまな軍閥にも、そしてカルザイ現政権の下でも、その悪意の標的とされているのである。思い出してほしいのは、カルザイ政権が昨年3月、アフガンスタンにおいてレイプを合法化するにも等しい法案を通過させたことだ[5]。このような極端な法は、ターリバーンが政権にあった時にも成立したことはなかった。

[5]原文ではここで、2009年3月31日付けガーディアン紙の記事‘Worse than the Taliban’ – new law rolls back rights for Afghan women(ターリバーンより酷い――アフガン女性の権利を後退させる新法――)にリンクが貼られている。
http://www.guardian.co.uk/world/2009/mar/31/hamid-karzai-afghanistan-law

同記事は、カルザイ大統領が大統領選挙で票を買うために、夫婦間のレイプ、および夫の許可なく妻が戸外へ出ることの禁止を合法と認める法に賛同して、両性の平等を謳う憲法に反し、人権団体や一部国会議員が非難する法案に署名したと報じている。

第三に同記事の「もしわれわれがアフガニスタンを撤退したら、[アフガニスタンで]起こること」という見出しには、タイム誌編集者の帝国主義的なものの考え方が色濃く現れている。この見出しが示唆しているのは、9年間にわたる占領が終わってしまったならば、アフガニスタンの状況はさらに悪化の一途を辿るだろうということだ。こうした考えは、歴史的文脈を一切、度外視している。1980年代、[アフガニスタンの人々が苦しめられたのは]合衆国が支援したアフガニスタンの支配をめぐる[ソ連との]対抗戦争のためであったし、1990年代前半、[軍閥が人々を苦しめていた時]合衆国は、そのうちの特定の軍閥を援助し、ターリバーン政権の初期には同政権を支援し、現在の占領ではアフガン人に甚大な人的被害をもたらしているのである。

より事実に忠実な見出しをつけるなら、「9年間の占領はアフガン人にとって何を意味するのか?」だろう。だが、不運なことに、[米軍による占領の非を暴くような]この種の報道は、合衆国の企業メディアではなかなかお目にかかることができない。今般、ウィキリークスが暴露した合衆国のアフガニスタン関連文書に関する報道がその良い証拠だ。「報道における公正さと正確さ」[6]は、ウィキリークスが暴露した文書に対する合衆国の主流メディアの反応について、いずれもこれらの文書の重要性を過小評価したり、[オバマ政権による]アフガニスタンへの米軍の増派をさらに正当化したりするものであったと述べている。

[6]原文ではこの部分は、FAIR(Fairness and Accuracy in Reporting)の2010年7月30日付けの記事 ‘WikiLeaks and the U.S. Press: Media resistances to the exposure of governmental secrets’(ウィキリークスと合衆国の報道:政府機密の暴露に対するメディアの抵抗)にリンクが貼られている。
 http://www.fair.org/index.php?page=4128
タイム誌の表紙に登場した18歳の女性は、実際にターリバーンによって、このような目に遭ったのかもしれない。ターリバーンは、女性に対する恐ろしい暴力を行使したことで知られる政治運動である。しかし、写真も[彼女に関する]物語も、よく言ったところでせいぜいが読者に誤解を与えるものであり、プロパガンダと言われても仕方のないものだ。歴史を歪曲しているのみならず、合衆国によるアフガニスタンの占領をさらに正当化するものとしてオバマ政権に利用されうるからだ。

タイム誌の記事はまた、他のアフガン女性たちの声を無視してもいる。彼女たちの多くは、合衆国の占領を非難している。以下のドキュメンタリー「アフガニスタン再考」[7]において、アフガン女性たちが何と言っているか耳を傾けてほしい。

 [7]映像は以下で見ることができる。Rethink Afghanistan, Video, part5
http://rethinkafghanistan.com/blog/2009/07/rethink-afghanistan-part-5-women-of-afghanistan-full/
映像に添えられた説明には以下のように書かれている。

「RAWA(アフガニスタン女性革命協会)によれば、自らの肉体に火を放つ焼身自殺が今日、アフガニスタンで、かつてないほどの広がりを見せている。この事実ひとつをとってみても、アフガニスタンにおけるわれわれ[米国]の試みが、現地の女性たちの圧倒的多数に対して何一つなしえていないという厳然たる現実に思い至らざるを得ない。」

[原文]Time Magazine Uses Afghan Women

[原文URL] http://griid.org/2010/07/31/time-magazine-uses-afghan-women/

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【解説】

「アフガン女性とターリバーンの復活」と題されたタイム誌の記事によれば、ビビ・アーイシャは嫁ぎ先で虐待され、家出したところをとらえられ、地元のターリバーン司令官のもとで上述のような制裁判決を受けたという。

タイム誌の編集長リチャード・ステンゲルは、アーイシャの写真を掲載するにあたり、この強烈なイメージが子どもたちに与えるであろう衝撃を勘案し躊躇したが、「写真は、私たちすべてに関わる戦争の中で、今、起きている――そして、起こりうる――現実を見るための窓である」として、読者にターリバーンによる女性の処遇に向き合ってもらうために掲載に踏み切ったと述べている。(The Plight of Afghan Women: a disturbing picture(アフガン女性の苦境:心をかき乱す写真)2010年7月29日タイム誌
http://www.time.com/time/magazine/article/0%2C9171%2C2007415%2C00.html
イスラーム法の厳格な適応によるターリバーンの統治が、アフガニスタンの人々、とりわけ女性の人権を抑圧したことは知られている。2001年11月、ローラ・ブッシュ大統領夫人(当時)は、全米向けラジオ演説において、アフガニスタン空爆は、ターリバーンの支配によって抑圧されるアフガン女性の解放のためと謳い、米国による同国空爆を擁護した。タイム誌の記事はアーイシャを、復興するターリバーンの暴力の犠牲者として描き出すことで、大統領夫人の演説と同じく、アフガン女性の解放・救済という文脈に米軍・NATO軍の駐留・戦争の継続を位置づけ、これを正当化するものとして機能している。

しかし、アーイシャに制裁判決を下したのが、そしてそれを実行した彼女の夫やその兄弟、舅が、彼女が証言しているようにターリバーンのメンバーであったとしても、これらは、ターリバーンとも、彼らが掲げるイスラーム法の厳格な適用ともまったく関係がない。アーイシャは、家族間の紛争調停のために相手家族に幼い娘を「嫁」(実際は家内奴隷)として差し出す「バアド」(Baad)というパシュトゥーン人の伝統的慣習によって嫁がされ、家出によって一族の面子をつぶしたかどで制裁を加えられたのだった。タイム誌の編集長は、「ターリバーンによる女性の処遇」ではなく、正確には「土着の女性憎悪的習慣による女性の処遇」と述べるべきだっただろう。

アフガニスタンで現在、ターリバーンが勢力を再伸長しつつあるのは事実だが、女性差別的なこうした土着の因習は、ターリバーン時代以前も以後もずっとアフガニスタンに存在し、女性を苦しめている。マラライ・ジョヤは講演会で、夫の母親にガソリンをかけられて火を放たれ、無残な火傷を負い横たわる13歳の娘の写真を紹介し、こうした虐待から逃れるために、今年だけですでに、2300人の女性が焼身自殺を図っているというBBCペルシャ語放送の報道を伝えている。

アフガニスタン全土に蔓延する、こうした女性憎悪的な暴力に加え、スミスの記事で紹介されているように、国会ではイスラーム党が上程した、夫婦間の合意なき性交(つまりレイプ)を合法とし、性交を拒否した妻に制裁を加えることを認めた女性抑圧的な法案が成立している。この法案については、タイム誌の記事でも言及されているが、スミスが指摘しているように、米国はイスラーム党の女性憎悪に基づく犯罪を承知していながら、ソ連占領時代に同党の反ソ活動に多額の資金を提供した。これが同党を強力な軍閥にし、今に続く、女性たちの苦難の一つの根源になっていることについて、タイム誌は触れていないが、立法や司法の場における女性抑圧的な法の承認が、地方部における女性抑圧的な因習による暴力の伸長に繋がっているとも言える。

アーイシャの悲劇とは、タイム誌が報じるような、近年のターリバーンの復興によって起きているものではない。アフガン女性の解放を掲げた戦争によってターリバーン政権が崩壊し、女子教育の復活など一定の改善があったのは事実だが、一方で、アフガン女性の抑圧はこの10年間、何も変わっていないどころか、ますます悪化している。この事実は、「アフガン女性の人権」や「解放」を楯に占領継続を主張する者たちにとって、彼女たちの人権も解放も、実は関心の埒外であって、占領継続を正当化するための単なる口実に過ぎないことを端的に物語っている。アフガニスタンにおいて悪化の一途を辿る女性虐待は、米軍の駐留が、アフガン女性の解放に現実的貢献をなしえていないことを証明であり、その中でアーイシャが注目されたのは、蛮行の下手人がターリバーンであり、彼女をターリバーン復興の犠牲者として表象し、米軍駐留の正当性に接続して論じることが可能であったからだと言えよう。

マラライ・ジョヤも一連の講演会でタイム誌の表紙写真について言及し、「正確には『米軍がいる間にアフガニスタンで起きていること』とすべき」と語り、米軍のクラスター爆弾や白燐弾によって痛ましく負傷した子どもたちの写真を併せて紹介した。ターリバーンによって傷つけられたとされるアーイシャが米国で手厚い治療を受ける一方で、米軍駐留に対する批判を惹起することになるであろうこれらの子どもたちの写真がタイム誌の表紙に取り上げられることはなく、十分な治療もなされずに放置されている事実を指摘し、同誌の欺瞞を痛烈に批判した。タイム誌編集長が言う「今、起きている現実を見るための窓」の「現実」とは、実は極めて恣意的に選択されたものに過ぎない。