TUP BULLETIN

速報360号 アメリカ西部の大戦争 04年8月17日

投稿日 2004年8月17日

DATE: 2004年8月17日(火) 午後0時23分


☆ネバダ――火と水の戦い★
ヒロシマ・ナガサキ平和祈願の時節、核兵器廃絶の願いを実現するためには、超大国の現状を知ることがとても大事なのに、マスメディアは、テロにつながる核の闇市場についての報道ばかりで、“臨海前"という名分で、現在も核実験が実施されているネバダについて、またブッシュ政権の戦術核兵器開発計画について、何も伝えなかったようです。今回は、ネバダのNGO「シチズン・アラート」に関与する活動家レベッカ・ソルニットによる、同地の核廃棄物処分場計画の現況報告を紹介します。杜撰(ずさん)きわまるユッカ・マウンテン計画はいちおう頓挫したようですが、放射性廃棄物の処分問題は、わたしたちにとっても、対岸の火事ではないはずです。時あたかも、関西電力・美浜原発3号機で、原発技術に根本的な疑問を投げかける重大事故がまたもや発生しました。 /TUP 井上
/凡例:(原注)[訳注] [*]または[数字]=欄外訳注

[編注]本稿はトム・ディスパッチ企画、広島・長崎ウィーク3回シリーズの第二回 — TUP速報358号(初回)、362号(最終回)もご参考に。


トムグラム: レベッカ・ソルニット、核の集結地ネバダを語る
トム・ディスパッチ 2004年8月10日
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[編集者トム・エンゲルハートによる前書き]

にわかには信じがたいが、米国政府が国内核戦争で全面的な敗北をこうむった。
その経緯の最新情報をレベッカ・ソルニットが伝えているので、ヒロシマ・ナガサキ週間に贈るトムグラム核問題シリーズの第二弾として、ここに掲載する。
ソルニットは、彼女みずからが言う“公民社会意識の穴”になっているネバダにおける、核“戦争”およびその“戦場”について、早くも1989年から報告してきた。(そして彼女の2冊目の著作『サヴェジ・ドリームス〔未開の夢〕』に書いた)
いまでも彼女はネバダの現場に立っている。繰り返しになるが、ソルニット最新刊『暗闇のなかの希望――語られない歴史、野生の可能性』[仮題:邦訳は今秋出版の予定]をぜひとも手にとっていただきたい。この小さな本が、わたしの世界を見る眼をたしかに変えたし、あなたの世界観も変えるだろう。/トム


牛が放牧されている側(かたわら)で――
21世紀アメリカ西部の激しい大戦争
レベッカ・ソルニット
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この7月、フェッズ[FBI=連邦捜査局の俗称]が、画期的な、とても苦い
敗北と密のような勝利とをネバダ州にもたらした。敗北とは、数千年にわたる
西部ショショーニ[*]の歴史の閉幕であり、勝利は、世界最大――そして、
おそらく愚の骨頂――のユッカ・マウンテン核廃棄物処分場計画にともなう未
来の黙示録的破滅の回避である。たった3日の間に、ネバダの過去が葬られ、
未来が救われた。だが、このインディアン戦争および核政策といえども、ネバ
ダ州で進行している異様にもギラギラした一連の事態、すなわち、ちょっと挙
げるだけでもゴールド・ラッシュ、水利戦争、大規模な軍事行動といった、す
べて環境的に悪いニュースのごく一部にすぎない。
[Shoshoni=北米先住民のユートアステク語族の最大支派でショショーニ、コ
マンチ、ユート、パイユート、ホピなどの諸部族を含む]

ネバダの実状にまとわりつく不可視性は、この州に課せられた苦境の黙示録的
な様相そのものと同じくらい憂慮すべきものかもしれない。ネバダ州はじつに
特異な場所であり、いわば“公民社会意識の穴”になっている。ネバダ核実験
場を措いて、1951年から91年にかけて繰り返された1000回もの核爆
発実験が、アメリカのどこで実施可能だったのだろうか? 核兵器反対運動の
活動家でさえ、たいがいは、核戦争を恐ろしい可能性として論じるだけで、あ
る地域で現実に進行している大惨事としては捉えていなかった。63年に核実
験が地下に移され、フォールアウト(死の灰)由来の母乳放射能がアメリカの
乳児の歯に蓄積しなくなってからは、ほぼ30年間、なんの妨げもなく、月一
回の恒例で核実験プログラムが続行していたというのに、ネバダは地図から消
えてしまっていた。

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西部ショショーニの対決

現代のインディアン戦争は、アメリカのいたるところで続行しているが、ひと
つには、たいていの“非”先住のアメリカ人が絵になる過去の出来事であると
思いこんでいるため、また戦争の手段が替わってしまったため、さらにマスメ
ディアが一顧だにしないために、目に見えなくなっている。もっとも熾烈な戦
争のひとつに、西部ショショーニと連邦政府との間で進行している、ネバダの
大部分を賭けた土地所有権争いがある。この紛争は、アメリカ政府がメキシコ
から南西部を奪った1848年に始まり、第二次世界大戦後の一時期、ショシ
ョーニが権利を守るために提訴したときに熱気を帯びたが、この7月7日、ブ
ッシュ大統領が署名し、「西部ショショーニ配分法」が発効したときに、終結
してしまったようである。

その法案は、ネバダ東部および西部の代価として、数十年前に政府が預託して
いた資金を支払うと定めている。この地域は、19世紀の役人たちにとって無
価値に思えたので、たいていの先住民ネーション(邦=くに)の例とは異なり、
西部ショショーニの所有地として維持されたのである。20世紀の官僚は、ネ
バダの所有権を奪うには、土地が値ごろであった昔に取得済みであると偽るの
が最良の得策であると考えた。もちろん、西部ショショーニが運転する車のバ
ンパーに貼ってあるステッカーが謳うように、かれらの祖国「ニュェソゴビア
は売り物ではない」という事実は見過ごさなければならない。土地代金総額は
2600万ドルであり、エーカー[約4047平方メートル]あたりでは15
セントに相当し、1870年代当時の水準でも大安売りである。(利子を加算
すれば、支払うべき総額は現在では1億4500万ドルになる)

当然ながら、西部ショショーニは所有地を売ると言った覚えはないと指摘し、
その多くは配分金の受け取りを拒否した。かれらは強硬に反対したが、支払い
は実行された。(一部は、一人当たり3万ドルを願ってもない受取額と信じ、
手を打つつもりである) 西部ショショーニの“伝統主義者たち”が、所有地
における採鉱、軍事活動(米軍管理下の土地の20パーセントがネバダに集
中)、核開発活動に強硬に反対してきたのが、事態が拗(こじ)らす一因にな
った。西部ショショーニは牛の放牧で砂漠を破壊しているなどと言いたてる環
境保護論者たちもたまにはいるが、見かけたところ、連邦政府のこれまでの行
いに比べて、ネバダの乾燥地帯にとって、かれらはずっと善意ある管理人であ
ってきた。かれらは、過去の伝統を踏まえ、土地の未来を長期的観点から考え
ている。さらに言えば、単純な正義の問題がある。西部ショショーニは、イス
ラエルの“不寛容の長城[分離壁]”の裏側に押し込められたパレスチナ人や、
祖国の資源を有象無象のアメリカ企業に再配分されてしまったイラク人にも似
て、相続権と人権とを奪われている。

ショショーニ所有地の大規模な横領によって21世紀の利益を掴み、ゴールド
ラッシュの一攫千金に励んでいる企業は、たいていの場合、アメリカ籍ですら
ない。「1872年鉱業法」は、文字どおり“何人”に対しても、採鉱を目的
に掲げれば、公有地を二束三文で取得することを許しているのだ。例をあげれ
ば、トロント[カナダ]に本社を置くバリック・ゴールド社[1]は、金埋蔵
量が80億ドル相当と推定される土地の代価として、1万ドルに満たない金額
しか払っていない。現代のゴールド・ラッシュの話題は、残念なことに、フ
ォーティナイナーズ[2]の奇麗な版画に見る金塊ではない。バリック社、そ
の他の巨大企業は、ネバダ北東部のカーリン・トレンド[3]に沿った地下の
岩盤に分散している微細な金を採掘しているのだが、それでもアメリカを世界
第三の金産出国に押し上げるだけの埋蔵鉱量はある。
[1.Barric=バリック・ゴールド社概要(日本語)――
http://www.jogmec.go.jp/mric_web/major/2000/15Barric.htm ]
[2.1849年のカリフォルニア・ゴールドラッシュに駆けつけた人びと]
[3.1961年にニューモント鉱業社によって発見された金鉱床帯]

金を得るには、景観一帯を大規模に掘り起こし、鉱石を微細に砕き、その堆積
塊に青酸溶液を浸透させ、金を抽出する。金1オンスを精錬するのに、鉱石1
00トンが必要である。西部ショショーニの活動家キャリー・ダン(その所有
放牧地と一族の墓地とが金鉱採掘で荒廃した)が、アメリカ人が金の装身具を
買うときは、指輪や宝飾品のおまけとして、何トンもの素晴らしい毒性鉱滓
(こうさい=精錬カス)を持ち帰るべきだと推奨している。それが有毒である
のは、岩床をすり潰せば、地下の重金属類が放出されるからであり、だからこ
そ、人口が全米の1パーセントに届かないネバダは、ある法廷が算定基準を改
変してしまった2001年時点まで、有毒物質放出量が全米有数だったのであ
る。ネバダにおける年間50万トンの毒性物質産出量は、全米合計の10パー
セントに相当し、水銀放出量では、比類ない88.7パーセントに達している。
精錬に用いる有機化合物・青酸については、健全な環境のもとで分解するので、
何も言わないことにしても、水銀は永遠不滅である。

――――
水利戦争

金の環境コストは非常に高くついているが、地下水は勘定にすら入っていない。
実を言えば、地下水も重要な問題になる。カーリン・トレンド金鉱の多くが地
下水位よりも低い地層にあり、全米でもっとも乾燥したこの州で、鉱山は地下
水を大量に汲み上げ、廃棄している。つまり採鉱企業は、金を採掘するために、
水も併せて採掘しているのだ。ボリビアにおけるベクテル社水道事業を一例と
して、水を私物化する最近のビジネスが世界中で横行していることから分かる
ように、真水はますます貴重な資源になっているのだが…。長老格の西部ショ
ショーニ活動家で霊能者[いわゆるシャーマン]のコービン・ハーニーは、ず
っと昔に水不足のビジョン(幻視)を得て、それ以来、水をかれのライフワー
クの中心に据えてきた。ネバダのゴールドラッシュ地域では、水は汚染するか、
または近辺の水系に捨てられ、流れ去ったまま二度と戻ってこない。NGO
「グレートベースン[*]鉱山ウォッチ」によれば、ネバダの鉱山は、200
1年の間、50万都市の給水量に匹敵する水を捨てていた。
[Great Basin=米国西部、ネバダ、ユタ、カリフォルニア、オレゴン、アイ
ダホ、ワイオミング諸州にまたがる大盆地]

帯水層[埋蔵地下水の溜まり場]が回復するには、数千年単位の時間が必要で
ある。帯水層が枯渇すれば、また地下水位が下がるだけでも、いわゆる“水源
消耗”を招き、農業、地域集落、野生生物を潤していた表層水を枯らせてしま
う。環境保護運動や村落住民たちが、ホワイトパイン、リンカーン、ナイ諸郡
における水源開発に反対し、またクラーク郡の市街地(すなわちラスベガス)
の便益のために田園地帯で地下水を汲み上げる最近の計画に身構える理由の一
端が、これなのだ。この紛争は、ロマン・ポランスキーの映画「チャイナタウ
ン」[1974]で後世に名が残った、ロサンジェルス=オーウェンス渓谷水
利戦争にすでに比べられている。ポランスキーの映画が描かなかったのは、乾
燥し、砂塵嵐の巣になった湖底であり、乾ききった野生生物棲息地であり、ロ
サンジェルスの芝生と洗車が要求した環境災害だった。(近年、モノ湖[*]
の活動家たちの手で、部分的に修復している)
[Mono Lake=シエラネバダ山脈の東側山麓の塩湖。流入河川よりの数十年に
わたる取水により、湖面が著しく低下するとともに、塩分濃度が急上昇]

現在、ラスベガスは水道水の大半をコロラド河から取水している。1900年
時点で、この街の人口は一桁代だった。1980年代になって、わたしが核実
験抗議行動に駆けつけるために、実験場から96キロメートル南のラスベガス
を通り抜けていたころ、ようやく50万に届いたばかりだった。それが今では、
140万人を抱え、毎月5000人の規模で新顔のベガス族が流入している。
だから、ネバダ選出下院議員団の全員が水利権獲得に熱心なのだ。水が票にな
る。

ふだんは立派な環境政策通であるハリー・レイド上院議員でさえ、長さ360
キロメートルのリンカーン=ベガス送水管の建造に着手する法案を熱心に支持
して、これを通すために、もっと大事な法案を人質にとって脅しているほどで
ある。昔からの州の活動家、ジャン・ギルバートが「現在の人口では、水は十
分です。この爆発的な増加のせいですね」と語っている。

「南ネバダ水利事業局」統轄マネージャー、パット・ムルロイは別意見であり、
「水資源に限りがあり、その有限な供給が途絶えたら、成長が止まると考える
のは、過去の思考方法です」と語った。歓迎! 水が無尽蔵に流れる、全米一
の乾燥州ネバダへようこそ。19世紀に思い立ったら、20世紀末まで待てば
よろしい。金製品は安いし、未来は放射能で輝く。あるいは、過去の話だった
かな。ニュースが、すべて悪いわけでもない。

―――――――
黙示録を棄てる

さて、もう一度、ここで問題になるのは水だった。しかし、今度は不足が問題
なのではない。ユッカ・マウンテンは水浸しであり、7万7000トンの高レ
ベル放射性廃棄物の置き場にするのは、馬鹿げていると判明した。

政府は、原子力産業を創出するにさいし、事業そのものが生みだす基本的な危
機要因である、危険かつ甚だしく長寿命の廃棄物は行政で引き受けると、原子
炉操作員たちに約束した。その後、原子炉を操業しつづけてきた数十年をかけ
て、使用済核燃料棒は原発敷地内の“冷却プール”に溜まる一方であり、操作
員たちは、政府が約束を守り、搬出してくれるのを待っていた(大半の原発は、
人口が過密で資源が希少なアメリカ東部に立地)。ニューイングランド州の原
発3基が、投棄場未整備につき政府を相手取って提訴済みである。

大量の核爆弾を爆発させてきた(そして、ブッシュ政権が続投すれば、実験を
再開しようとしている)ネバダ核実験場の北外れ、ベガス北方約145キロ
メートルに位置するユッカ・マウンテンは、核廃棄物処分場としては、およそ
科学的に考えて、もっとも疑問の多い候補地だが、連邦エネルギー省はここに
それを設置したくて、20年以上も前から、なりふり構わずにやってきた。

当初の計画では、西部三州の候補地を比較し、最適地を選定するはずだったが、
政治力のあるテキサス、ワシントン両州は、さっさとレースから降りてしまっ
た。“比較検討”なるものも、結局、調査が実施されたのはユッカ・マウンテ
ンだけであり、しかも調べれば調べるほど、(この放射性物質は25万年間は
実質的に危険であるという事実は脇に置いといて)1万年間は人間環境から廃
棄物を遮断するという要求水準にすら、不適合であることが明らかになってく
る始末だった。このような結果が出ても、どうしたことか、計画推進の姿勢は
変わらなかった。多くの地質学者にとって、ユッカ・マウンテンが、地質年代
の尺度でいう最近、火山活動を起こし、また、ごく最近に地震活動が見られた
という事実が、異議を唱える十分な根拠になるはずだった。それでも、エネル
ギー省の当局者たちは、ひたすら基準を引き下げ、事実をごまかし、反対論者
を解雇し、その一方で、最近の素敵な短期海外戦争の戦費に匹敵する1兆ドル
近くを費やして、計画実現を期していた。

ネバダには、立派な活動家たちがいて、非道に対して何度か毅然と立ち向かい、
州政府じたいも、同州を世界最大の核廃棄物処分場に改変する連邦政府の計画
に対して声荒く戦った。今の時点で、今回は、この係争につき、かれらが勝っ
たが、これは偉業でもなんでもなかった。ユッカ・マウンテン計画は、早くか
ら“ネバダ騙し”法案と異名をとっていて、東の最果ての原子炉から全米を横
断して、放射性物質を運搬するという無責任な計画は、一般に“移動チェルノ
ブイリ”の名で知られていたのである。(放射性廃棄物搬送ルートから800
メートル以内の範囲に、5000万人のアメリカ人が居住する。あなたがアメ
リカに住んでいて、家からどれほど近くを放射性物質が通るのかを知りたいな
ら、シチズン・アラートのサイトで核廃棄物輸送ルート地図をクリック――
http://www.citizenalert.org/yuccanew/map-2.htm [英文])

東部人たちは、ウィリー・コヨーテ[*]が登場しそうなネバダの景観を、ほ
んとうに生気のない乾燥地帯と想像するし、ニューヨーク・タイムズが、同地
の描写をするのに、「不毛の、空漠たる、非生産的な、無用の」などという形
容詞を付けなくてすむのは、実に稀である。だが、地下では、水位が驚くほど
高く、気候の変動の具合によっては、さらに上昇することもありえて、降雨時
には、山体にある無数の亀裂を縫って流れ、核廃棄物を封じ込める容器の材料
に提案されているほぼ全部の金属類を含め、ほとんどの金属を侵食する能力を
持つ溶解液になる。
[Wiley Coyote=チャック・ジョーンズが漫画に描くキャラクターで、擬人的
なコヨーテ。筆者によれば、先住民神話の造物主コヨーテの曽孫]

当初は、岩そのものが放射性物質を遮蔽すると想定されていた。ユッカ・マウ
ンテンが、そのような用途には特に不適であると判明したときには、金属容器
が廃棄物を閉じ込めるという着想が持ち出された。侵食作用が金属を食い潰す
と分かったときには、容器毎にチタン製の傘を被せるというアイデアが採用さ
れた。はてさて、20年かけて研究し、大地の厚い覆いで防護することから、
パラソルで守ることに変わった。かれらはこれを科学と言い習わす。

州政府「核プロジェクト局」(つまり投棄反対の立場)の地質学者、スティー
ブ・フリシュマンが、ずっと前にわたしに語ってくれた――廃棄物の必須遮蔽
期間として1万年を採用したのは、10千年紀ぐらいだったら、地質学的にも、
気象学的にも変動の予測ができると装うためだった。それを超えれば、まった
く知りようもない。ネバダは降雨林になっているかもしれない。太古の湖がふ
たたび満杯になっているかもしれない。その時に、誰が放射性物質の世話をし
ているのかは、神のみぞ知るである。西部ショショーニだろうか? ユッカ・
マウンテン計画全体のさらにシュール[超現実的]な側面のひとつに、さまざ
まなアイデアを捻(ひね)って、遠い未来の未知の文明でも意味が通じる放射
性廃棄物警告ラベルを創案するという難しい仕事がある。

だが驚いたことに、西部ショショーニ配分法案がブッシュの署名を得てから2
日後の7月9日、連邦控訴裁判所がユッカ・マウンテンの基準が間違っている
と裁定したのである。全米科学アカデミーが下した、安全基準は、1万年管理
を前提にするのではなく、放射線最高値時点にもとづいて策定されるべきであ
るとする判断を、環境保護局は受け入れるべきだったと断定された。これでは
管理期間は遥か30万年先の話になってしまい、それよりずっと前に金属容器
は腐食してしまって、それこそ話にならなくなる。ネバダ州側の弁護士ジ
ョー・イーガンは、「エネルギー省は、みずからの証拠がこぞって実現不可能
と示している基準を適用しなければならなくなるだろう」とラスベガス・サン
紙に語った。

これは、ユッカ・マウンテン核廃棄物処分場計画のお蔵入りを意味するが、こ
の判決は数週間以内は上告することもできたし、エネルギー省は、ブッシュ政
権の有終の美として12月までに処分場の免許を獲得するために全力をあげて
いる。ケリー上院議員[民主党大統領候補]はユッカ・マウンテン計画に対し
て強硬な態度を示している(一方、エドワーズ[副大統領候補]は、原発依存
度の高いノースカロライナ州選出なので、態度が煮えきらない)。

これは、ネバダにとって目が覚めるようなグッド・ニュースである。数十年に
わたって処分場に向かって核廃棄物が移動する搬送ルートから800メートル
の距離内で暮らしている5000万人のアメリカ人の運命や、長年の間に統計
的に予測される90ないし500件もの未知の規模の事故はさておいても、ユ
ッカ・マウンテンは“待ち構えている惨事”であると、科学者たちはいつも言
っていた。(わたしたちの税金で汚い爆弾[*]を提供できるというのに、ど
このテロリストがわざわざ手に入れようとするだろうか?)
[核廃棄物搬送列車またはトラック車列はテロの恰好の標的になる。核テロの
防止を謳えば、すなわちいわゆるプルトニウム警察国家の成立]

人権侵害、少数者の利益を図る資源の浪費、国家の長期的な未来に関わる狂気
の決定を考えれば、イラク戦争は、本国にある厄介事から眼を逸らさせる“お
とり”であるかのようにも思えるが、すべて同じ成分で構成されたパラレル・
ユニバース[1]であるようにも見える。ただ、ネバダの差し迫った惨事に対
する反対論は――ネバダの外では――ほとんど見られない。けれど、また違っ
た視点をイラクから持ちかえることもできる。ひとつには、ゴリアト[2]が
必勝するとはかぎらない。地方の活動家たちやネバダ州政府のダビデが、数十
年間もユッカ・マウンテン計画に戦いを挑み、このラウンドでは、ゴリアトが
負けた。もうひとつには、あなたに粘りがあるなら、敗北と見えるものでも変
わりうるということであり、西部ショショーニには、忍耐と義務という心強い
味方がついているということである。
[1.平行宇宙=似たような複数の宇宙が互いに重なって存在するとするSF
の古典的な概念]
[2.ダビデに倒されるペリシテ人の巨人戦士。従来は「ゴリアテ」と表記さ
れていたが、ここでは現行の共同訳聖書(旧約サムエル記上17)に従う]

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[筆者] レベッカ・ソルニット=サンフランシスコ在住、ネバダ核実験場閉
鎖運動、経済グローバル化反対運動など、幅広く行動する思想家・作家。
[著書] 西部ショショーニの土地戦争とネバダ核実験場を描く『未開の夢
(仮題) Savage Dreams』(1994年刊)
新刊『暗闇のなかの希望(仮題) Hope in the Dark: Untold Histories,
Wild Possibilities』(2004年刊。七つ森書館から邦訳出版の予定)
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[原文]Tomgram: Rebecca Solnit on nuclear Nevada
Posted at TomDispatch, August 10, 2004;
http://www.thttp://www.tomdispatch.com/index.mhtml?emx=x&pid=1674
Copyright C2004 Rebecca Solnit TUP配信許諾済み


[翻訳] 井上 利男 /TUP