TUP BULLETIN

速報920号:シリーズ「パレスチナの女性の声」【5】最終回 [まとめ / 行動提案]

投稿日 2011年7月4日
女たちの証言--占領下パレスチナで生きるということ

シリーズ「パレスチナの女性の声」は占領下パレスチナのヨルダン川西岸地区にあるWCLAC(女性のための法律相談センター)による2009年報告書の翻訳です。スペィシオサイド(spaciocide、空間的扼殺)とも形容される占領下で、日常的暴力と人権侵害に苦しむ女性に対する同センターによる聴き取り調査に協力した19人の女性の証言を、今年1月3日から14回にわたり、お伝えしてきました。15回目の今回は最終回、「まとめ」と「行動提案」をお届けします。

 「行動提案」は、ヨーロッパ諸国を念頭に書かれていますが、日本の私たちにもできること、参考になることもあります。イスラエル市場に進出する日本企業に対して抗議の声をあげる運動も国内外ですでにおこなわれています。まずは、「良く知ること」。本報告の翻訳がその一助となれば幸いです。

 シリーズ全体の前書き:岡真理、向井真澄/TUP (TUP速報869号をご覧ください)

 翻訳:岡真理、キム・クンミ、寺尾光身、樋口淳子、藤澤みどり、向井真澄/TUP

 パレスチナの女性の声シリーズの全体は以下のページでお読みいただけます。

パレスチナ女性に対するイスラエルの人権侵害報告書-2009年度版
シリーズ【5】最終回

■まとめ

本報告の目的は、パレスチナ人女性の証言を通して、イスラエルの軍事占領の主要政策および実践のいくばくかと、その影響に光を当てることです。WCLACが集めた証言は、占領の非道さを具体的に例証しており、女性やその家族が被る人権侵害がいかなるものであるかについて、私たちがよりよく理解するのを助けてくれます。

これらの証言は、占領がパレスチナ人の生活にさまざまな形であまたの影響を及ぼし、国際人権法、人道法を疑いの余地なく侵害していることを示しています(原注★)。分離壁、入国許可の制限による家族の分断、家族再統合の申請処理の不履行、検問所、家屋破壊、イスラエルの民間人や兵士による暴力や嫌がらせ行為の責任が問われないといったイスラエルの政策や慣行は2009年度も継続しています。

 2008年8月13日、国連総会決議62/106に従って提出された、「被占領地のパレスチナ人およびその他のアラブ人の人権に有害な影響を与えるイスラエルの行動に関する特別調査委員会報告」第24段落も参照のこと。

これらの慣行は[パレスチナ人の]共同体をばらばらにし、家族を分断し、移動の権利を著しく侵害し、健康、教育、十分な生活水準、仕事、家族生活を享受する権利を侵害しており、イスラエルは占領者として[占領下の]市民を庇護しなければならないという国際法を完全に踏みにじっています。

本報告書でWCLACはまた、これらの人権侵害が女性に与える社会的、文化的、経済的影響に対して読者が注意を向け、パレスチナ人女性の生活に対して占領が及ぼす破壊的で、女性固有の影響について理解をより深めてくれることを期待しています。ここにまとめられた証言は、インタビューした女性たちに占領が与える社会的、経済的な影響、および深刻な心理的、感情的影響を明らかにしています。

AR(証言2-速報870号)は、自宅の外で入植者が家に放火したとき、子どもたちと家の中にいました。彼女は自分が抱える恐怖を次のように語っています。「窓を開けると、また同じことが起こるかもしれない、と不安になります。彼らがまたやってきて同じような出来事が繰り返されるのではないかと思ってしまうのです。今ではかすかな物音にも怯えますし、すごく怖くなります。夜、入植者が戻ってきて家を焼き払う夢を見ることもしばしばです。」

暴力に関する他の事例では、正常な生活を送ることができない、[入植者の]攻撃が繰り返されるのではないかという不安を抱えて生活しているとWCLACに語っている者たちもいます。アーヤートはWCLACに、ヘブロンでイスラエル人入植者の攻撃にさらされて以来、たえず恐怖を感じていると語っています。「家を出るときは必ず恐怖を感じるし、家の中でも外でも日常生活を正常に送れず、ずっと通っていた講習もやめました。ヘブロンで別の教育実習の講習も受けていましたが、それもやめました。いつも入植者と投石を想像し、周囲を見回してばかりいます。」(証言1-速報869号

家屋破壊の事例についても、女性の社会的、文化的生活が被る影響は甚大です。女性は自宅を失うだけでなく、プライバシー、独立性、正常な家族生活をも失います。自宅を破壊され、義理の両親とともに暮らさざるを得なくなったアマーニーは、新しい生活になじむのにたいへん苦労しています。

「私には一人になる時間もプライバシーもありません。以前は、家では半袖の服を着ていたし、外出するときもスカーフなどかぶりませんでした。いまは他の人といっしょに住んでいるので、どんな格好をするかにいつも気を使っています。前は家族のために料理し、全部の食事を作っていました。いまは家の中のだれかが調理するのでわたしはしません。プライバシーもひとりになれる時間も場所もまったくありません。」(証言16-速報915号

マナールは自宅を破壊されて、義理の両親の家の一室に暮らしています。「どうか、どんな暮らしか想像してみてください。わたしたちには3人の小さい子どもがいるのに、そのうえ、ふたりのおとなとふたりの子どもからなる一家といっしょに暮らしているんです。わたしは絶望のうちにあり、この状況をどのように変えたらいいか、どんな考えも計画もありません。」(証言17-速報917号

マイスーン(証言15-速報915号)も同じ状況に置かれています。何年も自宅のために貯蓄していたのに、その家を破壊され、ふたたび夫の家族とともに暮らさなければならなくなりました。家屋破壊や強制立ち退きについてインタビューした女性たちはWCLACに、身体的、心理的健康が被る影響、とりわけストレスや鬱、そして夫や子どもたちとの関係に生じる困難について語っています。

シルワーン出身のイルハームはWCLACに、14年ものあいだ自宅を破壊すると脅されながら生活しており、慢性の鬱状態にあると語っています。「いつもそのことについて考えてはいるのですが、誰にも話すことはできません。安心感のないまま暮らしていて、もう何も楽しむことができないようです。基本的には、慢性的に鬱状態です。」(証言13-速報908号

移動の自由を制限されることで影響を被っている女性たちの証言もまた、パレスチナ人の基本的人権を制約するイスラエルの政策による社会的、文化的、経済的な影響を明らかにしています。キファーヤは自らのおかれた状況を次のように説明しています。「私と家族全員は西岸のIDカードを持っています。ということは私たちにはエルサレムに入ることは公式に許されないということです。ですが我が家は検問所のエルサレム側にあるので、私たちの村から家に帰るには検問所を通過しなければなりません。私たちは検問所を通らない限り我が家に帰ることができず、それも、家族の全員、一人ひとりに特別許可証が要るのです。」(証言9-速報887号

彼女は67歳で健康に問題を抱えていますが、そうしたことにはおかまいなしに制約が課されます。「私は検問所の向こう側へ通って行けますが、歩いて通らなければなりません。ところが検問所は自動車向けにしか設計されていないのです。イスラエルの「黄色」ナンバープレートを付けた自動車しか検問所を通り抜けられないので、私たちは自動車では通れないのです。私たちはエルサレムのIDを持っていないために、そんな車を持てません。私たちはタクシーを使うこともできません。エルサレムのタクシーはエルサレムに入る許可証を持っていない西岸ID保持者を客として乗せることができないからです。」(同上

別の証言で、リマは、入植者の存在や検問所、そして許可制度のせいで、自分が自宅に幽閉されているように感じること、そして、家族も滅多に訪ねて来てくれないと語っています。彼女は言います。「ちょっと牢屋に住んでいるような感じですが、少なくとも囚人たちは親族訪問が許されています。私の親族はここ10カ月の間に我が家への訪問をたった1回しか許可されませんでした。そしてそれはラマダーン月の間の食事のためでした。そのためでさえ、私の5人の兄弟たちは同じ日に一緒に来なければなりませんでしたし、真夜中になる前に家を辞さなければなりませんでした。」(証言10-速報889号

イスラエルの軍事占領が42年に及び、状況が国際人権法、国際人道法の基本原則を体系的に侵害していることは明瞭です。WCLACは今後も継続して占領によって被害を受けている女性たちの証言をまとめ、占領が女性に与える影響を分析し、被占領地における女性の状況について広く知らしめるともに、自覚を高めたいと思います。WCLACは、国際的な法的機構を通して、国際人権法、国際人道法の侵害に対する責任者の責任を追及し、野放し状態を終わらせることが、占領に終止符を打つための中心的原則であると考えています。

■行動提案

以下のようなアクションを提案します。

本報告でとりあげた問題に対して、みなさんはさまざまな行動をとることができますし、WCLACの仕事を支援することができます。

●地元選出の議員やイスラエル当局に手紙を書きましょう。

イスラエル政府に手紙を書く、および/あるいは、あなたの地元選出の議員に連絡をとりましょう。あなたがどこにいるのであれ、本報告のなかの一つ、あるいはそれ以上の問題について、議員に提起し、行動を起こすよう求めてください。(英国の場合は、www.writetothem.com に、アイルランドの場合は、www.oireachtas.ie に。)

●パレスチナに行ってみましょう。。

被占領地の状況を理解するためのスタディ・ツァーが、英国に本部を置くリディスカヴァリング・パレスタイン(パレスチナ再発見、http://www.rediscoveringpalestine.org.uk)や、オリーヴ・コーペラティヴ(www.olivecoop.com)、エクスペリアンス・トラベル・ツアーズ(info@experiencetraveltours.org)、および西岸に本部を置くオルタナティヴ・ツーリズム・グループによって組織されています。

●集会や議論する場を持ってください。

グループを作って、パレスチナの女性の状況について議論してください。あなたの友人や同僚、地元のみなさんの意識を高めるために本報告にある事例を利用してください。テーマや集会の講師についてアドヴァイスが必要であれば、WCLACにご連絡ください(info@wclac.org)

●違法入植地との取引をやめるのに協力してください。

地元のスーパーマーケットに対して、国際法に違反したイスラエルの入植地の産物を買いたくないと伝えてください。「西岸産」となっているハーブ、なつめやし、果物、野菜に注意してください。これらは、占領下パレスチナに違法に造られたイスラエルの入植地の産物の可能性があります。スーパーマーケットには、もし、このような製品があるのであれば、消費者が入植地の製品を買うのを避けることができるよう、商品ラベルには正確に産地を記載するよう言ってください。入植地と占領から利益を得ている企業についての情報は、こちらを参照してください。(www.whoprofits.org

●姉妹都市の提携、友好関係を進めましょう。

あなたの街、大学、学校、組合と、占領下パレスチナのそれとのあいだで姉妹関係あるいは友好関係を結ぶことは、現地の人権状況に対してあなたの地元の人々の注意を喚起する効果的な方法です。www.twinningwithPalestine.netは、友好関係、姉妹関係を結ぶ上での実際的なアドバイスを提供しています。

●より多くの情報を入手してください。

イスラエル/パレスチナの日常生活の現実は、日々の報道やメディアでは、十分にカヴァーされているとは言えません。以下のウェブサイトは占領下パレスチナの状況について有用な情報を提供してくれます。

www.wclac.org
WCLACのウェブサイト。
www.alhaq.org
被占領地における人権侵害に関するパレスチナ人権団体の報告、統計。
www.adalah.org
イスラエルに本拠地を置くパレスチナ人権団体が行う訴訟や政策業務についての情報。
www.btselem.org
被占領地における人権侵害およびイスラエル政府の政策に関するイスラエル人権団体の報告および統計。
www.dci-pal.org
パレスチナにおける子どもたち、特にイスラエルの刑務所に勾留されている子どもたちの権利に関する情報、報告、統計。
www.icahd.org
家屋破壊に反対するイスラエル委員会のウェブサイト。被占領地における家屋破壊に関するニュース、行動について。
www.ochaopt.org
国連人道問題調整部のウェブサイト。定期更新。被占領地の人道状況の現状について国連その他、信頼できる情報を提供。
www.whoprofits.org
入植地および占領から利益を得ている輸出製品や企業についての詳細を提供するイスラエルのウェブサイト。

原文:

A 2009 report on Israel’s human rights violations against Palestinian women
http://www.wclac.org/english/publications/book.pdf

[終]